約 1,181,397 件
https://w.atwiki.jp/jewelry_maiden/pages/347.html
蛋「衣替えの季節です!」 殺「いきなりですわね、蛋白石」 テレビを見ていたら衣替えという単語を発見! 蛋「しかし……衣替え……いったい何をするんでしょう……」 殺「私たちには関係ありませんわ」 電「衣……替え……衣を替える……衣替え」 殺「そのまんまで変わってませんわよ……」 ううーん……衣を替える……衣……着ている物だよね? それを替える……そうか! 蛋「わかった!! 着ている物を替えるんだ!」 殺「そのまんまの意味ですわね。まぁある意味間違いではありませんが」 蛋「あってるんだよね? それじゃ殺生石! 替えよう!」 殺「……はい?」 蛋「だって、着てる者を取り替えっこすることなんでしょ?」 電「私も……するー」 殺「違いま――」 蛋「よーし! お姉さまもやりましょう! さぁ! 殺生石も衣替えしましょう!!」 殺「ちょっと! 人の話を聞きなさ……って引っ張らないで下さい!!」 衣替えをしてご主人様を驚かせるぞー♪ 主「ただいまー」 あ! ご主人様が帰ってきました。 電「……おかえりー♪」 主「あれ? 電気石……それって蛋白石の服……だよね?」 電「衣替え♪」 主「……なんだか間違った解釈をしてる……でも電気石かわいいね」 おお! お姉さまうれしそうです♪ 蛋「あ、ご主人様おかえりなさいー」 主「そ、それは殺生石の着物……」 蛋「どーですか? 似合いますかー♪ ちょっと重いですけど、私にかかればちょちょいのちょいです!」 あれ? なんだかご主人様が固まってしまいましたよ? どうしたんでしょ? 蛋「ご主人様? どうしました?」 主「……はっ! 綺麗……だね」 蛋「え!? あ、はい……アリガトウゴザイマス……」 な、なんでしょう……胸がどきどきします……。 主「と、とりあえずご、ご飯の用意するね!」 ご主人様は走って居間の方へ……まだ……どきどき……。 主「うわぁぁぁぁぁ!! 殺生石どうしたの!!」 殺「ううう……」 殺「私は嫌だと申しましたのに……意味も違うと申しましたのに……無理やり脱がされて……無理やり着せられて……」 ああ、そいえば殺生石、部屋に連れて行くとき何か叫んでたような……。 殺「このようなふりふりな服は私には似合わないことなんで分かっているのに……しかもよりによって主様の前で……」 主「そ、そんなことないよ! かわいいよ殺生石!」 殺「……本当……ですか?」 主「あ、ああ……かわいいよ……」 殺「そ、そうですか……たまにはこういうのもよい気分転換になるかもしれませんね♪」 む……なにやら今度は胸がむかむかしてきました!! なんなんだろこの感覚……むー! とりあえず!! 蛋「ご主人様! お腹空きましたー!!」
https://w.atwiki.jp/ripoff/pages/15.html
最新の盗作はこちら→最新の盗作 活動中 活動停止中(問題の作品の更新のみを停止) 活動停止中(全ての活動を停止)▼作品名:白と黒の理 ▼作品名:バカとテストと独眼竜 ▼作品名:真・恋姫無双 袁の名を持つ武将 ▼作品名:If You Over The World ? 新しいもの、話題性の高いものほど上へ配置 古いもの、話題性の低いものほど下へ配置 活動中 該当作品なし 活動停止中(問題の作品の更新のみを停止) 該当作品なし 活動停止中(全ての活動を停止) ▼作品名:白と黒の理 Nコード n5544s 作者 浅羽 智(ID:62154) 最終更新 2012年03月01日(改訂日) パクリ元 『小説家になろう』の「義妹が勇者になりました」 指摘に対し「影響をうけている」と回答。修正作業に着手。 2011年12月13日にて、検索除外にした上で大改訂をする旨を告知。 2012年03月01日、改訂を終えたとして検索除外を解除。内容については【要検証】 以後の活動は見られない。 ▼作品名:バカとテストと独眼竜 Nコード n5769n 作者 tam(ID:97975/ユーザーネーム:tamon) スレ初出 2011年07月14日 最終更新 【にじファン閉鎖】2012年7月20日 パクリ元 『小説家になろう』の「バカとテストと召喚獣 試験召喚のすすめ」 コピぺによる盗作。 コピペ後の修正ミスで、パクリ元の登場人物の名前がそのまま残っているなど、明らかな証拠が見られた。 2010年10月11日、感想欄に指摘が入り、該当部分を修正。現在は残っていない。 コメントにて「ちょっと打ちこみ時間省略でコピーを使うときがあるんでこうなってしまいました」と盗作を認める。 その後、感想での盗作関係の指摘に対しては「ちょっと他に参考にしている漫画や小説もありますが、そこは2次創作ということで」で流している。 修正後も一時的に活動を継続していたが、その後、長期にわたって活動を停止。散発的に活動報告をあげるのみ。 2012年7月のにじファン閉鎖に伴い、運営により閲覧禁止に設定される。が、作者は移転する旨を述べている。 ▼作品名:真・恋姫無双 袁の名を持つ武将 Nコード n6732t 作者 XYZ(ID:152859) 最終更新 【にじファン閉鎖】2012年7月20日 パクリ元 『小説家になろう』の「真・恋姫†無双で部下をやってます」 作品そのものより、擁護者の言動が話題になる。 盗作指摘後、作者は沈黙していたが、4ヶ月程経ってから1度だけ更新。感想欄は放置。その後結局、活動を停止している。 2012年7月のにじファン閉鎖に伴い、運営により閲覧禁止に設定される。 ▼作品名:If You Over The World ? Nコード n2175n 作者 蒼色ツバメ(ID:93406) 最終更新 2011年04月19日 パクリ元 『小説家になろう』の「竜殺しの過ごす日々」 該当作品の感想欄で指摘され、パクリを認める発言をする。 しかし後にパクリを否定する発言もしており、態度がはっきりとしない。 現在は活動を停止中。 2012年7月のにじファン閉鎖に伴い、運営により閲覧禁止に設定される。
https://w.atwiki.jp/dngss5/pages/281.html
SSその1 ◆◆◆◆ (ここが戦場?どうせなら拷問博物館の方が好ましかったのに) 目に飛び込んだのは『奈良国立博物館』と書かれた表札だった。 気の利かない大会運営の采配に、佐渡ヶ谷真望は豊かな銀髪を揺らし嘆息する。 (どうやら奈良国立博物館へ飛ばされたようね) 真望は建物の入口前に立っていた。 前方に十一面観音立像のレプリカ。背後を振り向くと、そこらに鹿の群れが佇んでいた。 知識と教養を総動員して地形把握に努める。 東京、京都、九州。 日本に4つある国立博物館で最も歴史ある奈良国立博物館。春日大社の武具や甲冑、正倉院の国際的文化資料、そして幾万の仏教美術品を所蔵する、日本有数の博物館である。 ——鑑賞品は、拷問に役立たない。せめて収蔵物に実用的な武器があれば良かったのだが。 第一回戦。対戦相手は各地で戦いを求め、実力で参加枠を勝ち取った少女、七月十。 純粋な力の差は明白であり、せめて数々の拷問器具を内包した拷問博物館で戦えれば、地の利を活かすことができた。しかしまだ手はある。真望は近接での拷問を最も得意とした。 (家族で行ったミラノの拷問博物館は楽しかったわ) 真望は数年前の家族旅行を思い出す。そして、十一面観音立像に触れると、酷薄な笑みを浮かべた。 「ま、私の鞭にかかればここも拷問博物館に早変わりするのだけれど。さあ私を愉しませてくれるブタはどこかしら」 乾いた音が鳴り響く。真望が携帯用の鞭を振り抜いた音だ。 CTC(Close Tortures Combat)——近接拷問術。 学園の女王として、正面突破以外は有り得ない。だが焦る必要はない。 今宵、歴史的資料は自分の欲望を満たす為の拷問博物館へと堕落するのだから———— ————数分後を想像すると、真望は何ともいえず昂ぶった。 ◆◆◆◆ 七月十が転送されたのは、周囲を青銅器に囲まれた異質な資料展示室内。ガラスケースに整然と並べられた銅鏡や壺、銅鐸群。 ここが奈良国立博物館だとすぐに気づいたのは僥倖だった。祖母が毎年欠かさず正倉院展へ出向いていたことが幸いした。 「おばあちゃんから聞いたことがある。青銅器を見れば奈良国立博物館だと思えって。奈良国立博物館は新館と仏像館、そして人気のない青銅器館の三館で構成されてるんだっけ」 鉄筋コンクリートの建物、新館。 赤レンガの明治近代洋風建築、仏像館。 そして、人気のない建物、青銅器館。 確か、それぞれの建物は地下の回廊で繋がっている。 敷地内は広い。地形の利用法が試されるだろう。しかし、気配を探るが、対戦相手を近くに感じ取れない。 七月十は意識を集中し、対戦相手の佐渡ヶ谷真望の姿を思い浮かべる。本戦会場で見た時、氷のような表情がすごく綺麗だった。姿勢や筋肉のつき方から、白兵戦に長けた戦いをすることも推察できていた。 戦闘で最も重要なのは精神的な駆け引きだと七月十は思っている。 果たして今回の敵は、全力を振るうに値するのだろうか。 彼女はどこにいるのだろう?七月十の心は彼女と戦いたいという思いに駆られた。 「対戦相手を探すのか。面倒だな」 七月十は口笛を吹き、拳を振りかざした。 ◆◆◆◆ 新館のエントランスを歩いていた佐渡ヶ谷真望は雷鳴の如き轟音を耳にした。 (音が大きい。どこかの建物が崩落した音かしら?) すぐさま鞭を構え、戦闘態勢をとる。 音は青銅器館の方角からだ。 真望は思考する。今の轟音は、おそらく七月十からの合図だ。 音の大きさから、青銅器館は半壊、または完全破壊されただろう。ならば七月十が次に向かうのは、青銅器館から最も近い仏像館の可能性が大。 …仏像館に来い、というメッセージか。 「不遜な子。自分に自信があるのね、この私を誘うだなんて。良いわ、誘いに乗ってあげる」 プライドの高さゆえ、真望は七月十の誘いに乗らざるをえない。駆け引きは既に始まっている。 (お痛をする悪いブタは、しっかり教育してあげないと。それができなければ私は負けるだろう。いわばこれは心の戦いというわけね) 七月十への対策はいくつか想定している。 警戒しつつエントランスから建物の外に出ると、仮説はすぐに確信へと変わった。 青銅器館のあった場所から煙が上がっている。 建物は見る影もなく、瓦礫の山と化し、大地は裂けていた。 それは想像を超えた大破壊だった。奈良国立博物館の青銅器館だけが、完全に消失している。 「屈辱だわ…なんて力で殴ってるのよ」 言葉とは裏腹に、興奮が収まらない。 足はひとりでに、仏像館へ向かっていた。 ◆◆◆◆ 拳ひとつで青銅器館の建物を完全に破壊し尽くした七月十は、その足で仏像館へ向かった。 策は単純。敵が出るまで、博物館敷地内すべての建物を破壊する。 この仏像館に対戦相手の佐渡ヶ谷真望はいるだろうか。いや、敵は自ずとやってくる。本戦出場者がこの程度の挑発を受けないようでは、予選を通れた実力があるとは思えない。 (やっぱり来た) 仏像館。広い室内を白い明かりが照らし、曼荼羅図のように何体もの仏像が並べられている。まるで自分が博物館の中にいることを忘れてしまうほど美しい。 七月十が口笛ジャズの名曲『whip lush』を吹いていると突然、口笛の旋律に合わせ、乾いた鞭の良い音が室内に響いた。 正面から現れた対戦相手は、鞭を持ったボンテージ衣装の銀髪金眼の女性。 学園の女王、佐渡ヶ谷真望だ。 七月十は口笛を吹いていた。仏像に囲まれた異空間は白い光に包まれ、極楽浄土のように荘厳な雰囲気を醸し出す。 「美術館デートだなんて。御仏の前で殺し合うのは素敵ですこと」 佐渡ヶ谷真望が氷のように冷たい声を出した。 七月十は問いかけには答えず、彼女の姿を注視していた。 改めて見ると大人っぽい格好だ。黒いレザーで布地面積の少ない服を着こなしており…なんというか、かなり敵組織の女幹部みたいだ、と思う。 (どうしよう…見た目が派手で悪人みたいだ…銀髪だし) 彼女を外見通り、悪人として受け取って良いものだろうか?それは悪人のみに全力を振るう七月十にとって、重要な問題だった。 しかし自分は天元山に篭りがちな世間知らずの少女だ。相手は単に都会的な格好をしてるだけかもしれないと、七月十は自戒した。 「……」 「あら、私を無視するなんて酷いわ。屈辱よ。今ならまだ間に合うわ。ねえ、私の下僕にならない?」 「悪いけど、そういう上下関係は苦手なんだ。もっとシンプルにいこう」 もっとシンプルに、単純な力比べを。七月十の思いに応えるように、真望は微笑んだ。どうやら思っているより悪い人ではなさそうだ。 「断られるのはわかっていたわ。あなたって人の話を聞かなさそうな顔をしているもの。でも気が合う。私も小賢しい真似は嫌いよ。来なさいな、この佐渡ヶ谷真望が遊んであげる」 「真望さんか…!上から見下すような態度だね。私は七月十!七月十って呼んで!」 ◆◆◆◆ 真望の用意した戦闘法は至ってシンプル。攻撃を避け続けることだ。 (七月十の拳に触れることは致命傷につながる。) 鞭で牽制しながら、真望は七月十を注意深く観察する。 カンカン帽、中華衣装風のワンピースにサンダル。裾からスカートが覗いている。 髪は肩まで届くかといった程度。 あの細い体のどこに、さきほどの青銅器館を破壊した力が眠っているのだろうか。 (けれど、どんな攻撃でも当たらなければ意味がない。) 七月十が拳を振るうより早く、真望は鳥の翼のように舞い上がる。宙を飛び、曼荼羅のように八方に安置された仏像の中で一番大きな一体に着地した。 仏の頭を踏みにじる大胆な行為。これで地の利は得た。SMとはコミュニケーション。女王は見上げるのではなく、常に上から見下すことが重要。攻撃は一切触れさせない。 CTC(Close Tortures Combat)——近接拷問術。 相手は五体で建物を破壊するほどの実力者。通常打撃は有り得ない。 狙いは鍛えることの不可能な皮膚への鞭攻撃。あるいは急所攻撃。あるいは拘束によるギブアップ。 ①鞭による皮膚への痛覚攻撃——死の苦痛は実際に人を殺す。有効 ②縄で拘束、宙吊りにする——力で抜け出す可能性あり。却下 ③言葉責め——有効 結論。③言葉責めで攻撃を誘い、避けたところを①鞭で叩く。 拷問、拘束に優れた身体技能を応用し、しなやかな動きを作り出せば七月十の拳の打点をズラすことすら可能。 これで致命傷は避け———— 「ところで正面突破とは感心するけど」 「…ッ!」 瞬間。真望は絶句する。 対面に立つ少女、七月十は、3メートル近い不動明王座像を片手で持ち上げていた。 「私は拳以外でも戦うよ」 「…御仏の前だと興奮するって、言ったばかりじゃないのっ!」 策は小娘に看破されていた。地の利を活かすとはこういうことだ、と言わんばかりに、七月十は不動明王座像を手元で回転させる。 これでは、御仏の前での戦いではなく、御仏を使った戦いだ! 七月十は不動明王座像を真望に向けて投擲した。 「おらああああーッ!」 「なんて子、とてもガサツ!矯正されたいの…?」 言ってはみたが、まるで戦車の主砲のような威力だ。こんなものを正面から受け止めれば、一体どうなってしまうんだろう。 こみ上げる欲望を抑え、真望は嗜虐的な笑みを作り、不動明王座像を睨めつける。 やることは何も変わらない。このような不動明王なぞ、愚かな男どもと何ら変わらぬではないか。 「私の便器を舐めなさいッ!」 真望は酷薄な態度で、鞭の先端で輪を作り、不動明王を受け止める。そして遠心力を用いて不動明王座像を七月十に向けて投げ返した。七月十の力は規格外。ならばそっくり返せば良い。 投げ返すついでに不動明王の尻を叩いてやる。叩いたところが摩擦熱で黒く焦げ、赤不動が心なしか頬を赤らめたような気がした。 「中々の力だね。やっぱり戦闘魔人なんだ。」 七月十は笑いながら軽快に不動明王座像を受け止め、再び投げ返してきた。この小娘に遊ばれている。このままではさながら不動明王の応酬であり、付け入る隙がない。 このような大味の勝負では、すでに拷問器具を使用した大半の想定が破綻している。七月十。遊んでいるが、決して考えていないわけではない。 屈辱だ。まさか学園の女王である自分が小娘に不動明王をあてがわれるとは。 (どうにかして隙を作らないと…攻撃すら届かない!) 「気に入らないわ」 女王としての自負が失われた気がした。このような状況をいつまでも続けるわけにはいかない。怒りと暗い感情に支配された真望は、思いのままに不動明王の顎を蹴り上げる。 不動明王は粉々になり、無数の木片となって2人に降り注いだ。 「…真望さん、力が一段上がったね」 「私はね、屈辱を受けると強くなるのよ。隙が出来たわね。今度は私の番」 そう言った時には、既に真望が振り下ろした鞭は七月十に巻きついていた。 ◆◆◆◆ 七月十は目の前の敵に素直に関心していた。真望さんの戦い方には誇りがある。大会の観客を意識しているのか。それはこちらもまた同じ。七月十は共感の思いを抱く。 誰かに見られている戦いで恥を晒すわけにはいかない。 「ふんっ」 七月十は、あえて鞭を振りほどかなかった。 逆に真望から鞭を奪おうと、反対方向、つまり下方に体を動かした。10トンの体重がぶら下がればそれは山の重みと化す。 「綱引きだ、真望さん」 「さっきからその子供じみた態度。まるで見せつけるかのよう。もう少し真面目に戦ったらどうかしら」 真望が鞭を手放しそうにするところをギリギリ堪えている。しかし彼女の繊細な指先が動くと、鞭が一段とキツく七月十の首に食い込んだ。 ————自重による締め付け。10トンの体重が自分自身への枷となる。鞭は首筋を窒息させ、脱出を許さない。 「ぐうっ…がっぐぎぎ…!」 「どうかしら、戦うだけのお猿さんにはお似合いの首輪よね?」 七月十は揺るがない。綱引きの体勢を崩さず、真望と鞭を上下に引っ張り合った。 (やはり、怒らせるほどに真望さんの膂力は上がっている) 少ない酸素の中で思考する。先ほどの発言から、佐渡ヶ谷真望は怒れば怒るほど強くなる能力者という推測を立てられる。 初めから正面突破を狙ったプライドの高さ。戦闘にかける強い意志。仏罰を恐れぬ奇抜な服装。全ては自負を高め、より怒りやすくする為なのだろう。 「コォォオ」 玉龍拳・龍の息吹。七月十は首を絞める鞭に手をかけ、気道を確保する。 七月十は真望がどういう人間かを冷静に分析していた。…全力で殴っていい相手かを。 「強いな…真望さん!あんたと一回戦で戦えて本当に良かった」 「その余裕のある態度がむしろ私を刺激しているのよ?自覚してるかしら」 隙を見せたのは真望の方だった。七月十はその隙を見逃さない。 力ではない。真望が鞭を引っ張る方向へ、七月十は呼吸を合わせるように、今度は上方へ跳躍する。 「あっ!?」 七月十は仏像に立つ真望よりも高く舞う。自分を見上げる真望の目線を確認すると、一気に全体重をかけて臀部を振り下ろした。 戦闘機並みの体重は、まともに受ければ必殺の一撃となる。 「顔面騎乗っ!?」 「違うよ」 真望が叫ぶよりも早く距離を詰め、すれ違いざま、七月十は真望の顔面に正拳を叩き込んでいた。 「んんっ!」 拳が交錯した瞬間、距離を詰められた鞭は緩み、七月十は容易に拘束から脱した。衝撃で仏像が頭から大破し、真望は落下する。 「すごいな。今の拳、3割くらいの力で殴ったつもりなんだけど。よく気絶しなかったね!」 「生意気…言葉の意味もよくわからないわ」 真望は想定以上に耐久力がある。七月十の3割の力は、常人ならば即座に昏倒する威力だ。 七月十は真望の顔を見下ろす。真望はある種恍惚とした顔でこちらを睨みつけている。 真望は…怒らせるほどに強くなる。 「私は普段、どうしようもないクソヤローしか殴らないが…ひとつだけ例外がある」 何事にも例外があるとは、おばあちゃんの言葉だ。 七月十が全力を出さないのは、ある1人の少年との約束があるから。 「…願いを言え。私の全力に耐え切ってみせろ」 例外の存在。七月十の全力に耐えきれる奴。 願いの実現とは試練であり、試練を乗り越えた者の願いを叶えることはやぶさかでは無い。ただし、全力の拳との対価だ。 ◆◆◆◆ 来たな、と真望は意を得た。 初めから本命の対抗策はこれだった。 七月十。願望実現能力者。各地であれほど暴れまわっていれば、噂は自ずと耳に入る。 身体能力の差は歴然。だからこそ心理的駆け引きが重要となる。 七月十の全力を引き出すことには成功した。 ————これは心の戦いだ。ここからはより心理的駆け引きが重要となる。 そして、全力の拳に対抗する手段もまた既に練っている。 「ふふ、良いわ。私を全力で殴ってみなさい」 真望の笑みは被虐的だった。反対に七月十は柔和な笑みを浮かべている。 双方の利害が一致したと真望は感じ入った。 そもそも七月十が、全力で人を殴りたいという欲望を抱えていることは明白だった。建造物を一瞬で破壊する体術を十全に震える機会など少ないだろう。 これは運命。全力で殴られたい真望とは、すこぶる相性が良い。強者にこそ屈伏するのが最も相応しい。 真望には秘めた願望がある。女王としての責務とは真逆の、秘めた被虐願望が。 果たしてこの気持ちは悪なのか。そう考えるとさらに興奮が増す。 「私の願いは…あなたに全力で殴られること。さあ、私を殴りなさい」 「なるほど、気持ちが良いな。つまり全力での戦いそのものが願いか」 「まあ大体そうね」 七月十の指摘は少しズレているが、あながち間違いでもない。 先ほど殴られた顔面が熱くなる。自分が期待感に満ちた表情をしていることがわかる。愛する父のように、自分も全力で殴られたい。 「…願いを言え!」 七月十が一歩一歩足を進める。 (そうだ、来い) 「お前の願いを言え!」 「私の願いは…」 「私の拳は!」 七月十が拳をふりかざした! 「どんなクソヤローの願いでもひとつだけ叶えてみせるっ…拳だあぁっっっ!」 瞬間、真望は殴られた!! 刹那!真望は七月十の拳が輝くのを見た!光が一点に収束し、真望の腹部に撃ち込まれる。 「玉龍拳奥義・果報!大願成就!」 痛みにならぬ程の痛み。高防御力を誇る特殊ボンテージスーツ『ヴァン・ダークホーム』が意味をなさない。威力が地面に伝わり、仏像館が崩壊する! 「一」!「念」!「一」!「殺」! 体が千切れるように、建物の壁が崩れ…瓦礫を吹き飛ばし…仏像群を破壊し…溶岩噴出口のように深い穴が穿たれた! ◆◆◆◆ 果たして本当にこれで良いのか? 確かに七月十は強い。強くてその上、人を傷つけることに躊躇がない。殺すことに躊躇はあるようだが…理想的な支配者で、その上魅力的だ。 だが、佐渡ヶ谷真望にも選ぶ権利がある。 思い出すのは8歳の時の記憶。 父は世間向きには高名な格闘家だったが、家庭内では母のブタだった。 あの日。初めて低音ロウソクを買って貰った日。真望はふざけて父にロウソクを垂らした。別に反応を求めていたわけでは無かったのに。 「フゴフゴ、フゴッファ」 まさか、父にロウソクの垂らし方の注文を付けられるとは思いもしなかった。至らぬ女王がブタに注文を付けられることは珍しくない。 愛する父は愛する母のブタだが、決して真望のブタではなかったのだ。 屈辱だった…何気ない家庭の一場面でしかないそれは、真望に生まれて初めての衝撃を齎した。 (真望の真(ほんとう)の望(のぞみ)は…お父さまより……自分よりも強くて……男らしくて、たくましくい殿方から屈辱を受けること。つまり男性なのよ!) 父が見ている。母が見ている。奴隷たちが見ている。 相手が男性でないと、何のために大会に出場したのか分からない!! 「私の願いは!」 理想のパートナーに想いを馳せる。殴られた下腹部の奥が熱くうずき始める。思考はいつも以上に明瞭だ。 「私の願いは!こんな小娘に負けるわけにはいかないという覚悟!七月十、お前を倒してさらなる高みへ至る!」 絶対に男性に対して屈伏してみせる! 『悪徳の栄え(プロスペリテ・デュ・ヴィス)』 真望は精神的苦痛を受けるほどに強くなる。 精神的苦痛は今、かつてない程に心を苛んでいた。 ◆◆◆◆ 白煙が立ち込める中、立ち上がる真望の姿を見た。七月十は構えを解かず、次なる一手に備える。 「……」 「ふふ…屈辱よ。屈辱だわ。致死量のダメージを受けても、しばらく生きていられるほどに。」 ここからは一手誤れば必敗の領域だ。七月十は気を引き締めて状況を観察する。 真望の肉体ダメージは甚大。常人ならば即死している。そもそも人の形を保っていること自体が異常だ。 だが、生きている。 真望は、七月十の拳を敢えて受けることで、自らの能力を最大限に利用したのだ。 これが、切札。真望が用意した単純にして明快な攻略法なのだろう。死の屈辱によって、身体を極限まで強化し、死を免れる! そして死の屈辱を受けた肉体は、攻撃力もまた殺人的に強化されているということか! (なら、真望さんはどれほど強くなったのだろう?) 真望が暗い光に満ちた恍惚とした表情のまま口を開く。 「あなたの拳は凌いだ。さあ次は私のば」 「二度目は!!!!」 真望が何か言い終わる前に、七月十は二発目の全力の拳を叩き込んだ。 「ない!!!!」 「ぐふぅぅぅぅ」 全力で戦える相手を…七月十は心のどこかで求めていたから、それがたかが一発のパンチで済む道理はない!! そして、願いは一度しか叶わない! 七月十の歓喜の拳は真望を弾き飛ばし、仏像館を完全に破壊し尽くした。 ◆◆◆◆ 七月十の二度目の全力を受けた真望は、一瞬で新館へと飛ばされた。 真望はまだ生きている。二度目の攻撃を食らうという恥辱が、真望の魔人能力をさらなる段階へと押し上げたのだ。 だが、もう立てない。脚は震え、口から吐血し、鼻で呼吸が出来ず、思考が覚束ない。焼肉食べたい。 (鬼よ…鬼!あの子は戦いに求めるハードルが高すぎる…!) 今まで味わったことのないほどの痛み。至上の快楽、愉悦。真望はこのまま倒れて命を失って良いとさえ思った。 (嗚呼…七月十。なんて素敵な方なの!彼女をお姉様とお呼びしたい!でもそれはこの戦いが終わってから…) 今や真望は七月十に恭順の意すら抱いていた。女王としてのプライドごと殴り壊されたのかもしれない。しかし、だからこそ辛うじて立ち上がる力を振り絞る気力が湧いた。 「これからの戦いを想像すれば立てる…まだ立てるわ」 「寝てるんじゃねーぞ!立てゴラァ!」 突然の出来事である。真望は脇腹を蹴られた。 「ああああーーーーッ!」 「何喚いてんだゴラァッ!大丈夫か立て!今すぐ立ち上がりやがれーーッ!」 予期していなかった方向からの攻撃。この衝撃は…恋!?真望はブタのように地面を転がった。 (渋いハスキーボイス。七月十のものでは…ない!この声の主は一体だれ!?) 顔を見上げるよりも早く、太く逞しい手を差し伸べられる。無言で手を取ると、真望はまるで指示されたかのように立ち上がる。 見るとそこには、見知らぬ屈強な白人男性がいた。白人男性は仏様のように柔和な笑みを浮かべると、真望の脇腹をもう一度蹴った。 一切容赦のない無慈悲な一撃だ。 「ああああーーーーッ!」 突然現れた屈強な男性。真望は混濁する意識の中、その男を見る。 (ああ…なんてお父さまより……ううん、わたしよりも強い方……男らしくて、たくましくて……理想のパートナー!?) その男性は屈強なイケメンの白人男性だった。全身の雰囲気から人を傷つけることに愉悦を感じる外道であることを即座に感じさせるボンテージファッション。 (なんてこと、これは夢に見ていたシチュエーションよ。見知らぬ男に屈服させられて…脳内から汁が溢れ出てしまう!) これは夢小説?否、思えば当然の帰結だ。なぜなら、佐渡ヶ谷真望は七月十の一撃を耐え切ったのだから。 佐渡ヶ谷真望の願いが叶った! 召喚された!七月十の能力で、自分より強くてたくましい嗜虐趣味の理想の殿方が召喚された! 「えっと…あなたは?」 「俺はずっとキミを応援してきたファンさ。さあ、理想の戦いを始めようね」 いくらなんでもこんなところにファンなんて来れるものだろうかと、真望は思案した。だが、白人男性はすでにAED装置を起動していた。 ◆◆◆◆ 七月十は吹っ飛んでいった真望に追撃を加えるべく、新館へ駆けつけた。 真望があの程度の攻撃で倒れるとは思えない。敵は怒れば怒る程耐久力が高まる特殊能力の持ち主。二度目の攻撃によってさらに強くなった可能性が高い。 (ここまでの戦いで、わかった事がある。真望さんはカメラを意識して戦ってる。私と同じように。きっと知り合いに見られながら戦ってる) ならばこそ、全力で迎え撃つのが礼儀。 そして、角を曲がった時。目に飛び込んできたのは、縄で吊るされ、AED装置で心臓に電気を流されながら、鞭で打たれる佐渡ヶ谷真望の無様な姿だった。 「◯×▽■×」 七月十は声にならない声を出した。 これが衆人環視、人の目に見られながら戦う者の末路なのか。 だが真望は、七月十など存在しないかのように見知らぬ白人男性に鞭で叩かれている。 「オラッ!お前は七月十と戦うんだよ!戦うと言え!」 「はい!わかりました!戦います!戦わせてください!」 「良しっ!いい返事だ!どうだ、自分の鞭で叩かれる気分はどうだ!」 「ああああーーーーッ!」 「せいっ!せいっ!」 「ああああーーーーッ!ああああーーーーッ!」 見知らぬたくましい白人の殿方が真望を鞭で叩いている。 明らかに異常な光景だ。何が起きているのか七月十にはわからない。戦場に第三者はいないはずだ。 (いや、わかる。わかってしまった!) 七月十が動こうとした瞬時、真望もまた大きく震動しながら動きだす。 気が付いた時には、真望は力で縄を引きちぎり、七月十の股関節を蹴り上げていた。 「かっ…は…!速い!」 「七月十お姉様、股関節には神経が集中しており、男女問わず急所となりますのよ?」 「よし!そうだ真望!お前は戦うために生まれた醜い戦闘マシーンだ。AED装置で心臓を加速しながら動くブタだ!」 動きに反応できなかった。AEDを利用した電気反射は肉体の可能性を上回る。肉体では鍛えられない領域。七月十には想像もつかなかった世界。 その衝撃が痛みと相まって精神を揺さぶる。 七月十は生まれて初めて膝を地面につけた。 痛みに耐えながら理解する。 (詳細まではわからないが、きっとこれが、真望さんの願った光景なんだ!) 「だとしたらヤバイ…!この見知らぬたくましい白人の殿方が、真望さんを攻撃すればするほど真望さんは屈辱で強くなる!」 「ほおぉぉぉぉー!」 とても口では言えないようなことをされた佐渡ヶ谷真望は、まさに理想の状態!自由意志を完全に放棄し、全てを他者へ委ねることで到達する奴隷の境地へと至った! 能力との相乗効果が増し、致死量の傷すらもみるみる回復していく! 「なんてこと!これが佐渡ヶ谷真望さんの魔人能力の最終形態だったんだ!今の真望さんは死すらも乗り越えた、不老不死の状態だ!」 公衆の面前で理想の男性に理想の行為をされるという最大の恥辱。加えて、AED装置による心臓電気マッサージによる血行促進。 本来あり得ない出来事が実現したことにより、佐渡ヶ谷真望の魔人能力は最大の効果を発揮していた。 いわばこれは死のオーバーフロー。死すらも乗り越えた無敵状態である。 ◆◆◆◆ (はあ…はあ…見ないで…!観客の皆!七月十お姉様!私を見ないで!) ご主人様のブタとなったことで真望は本当の自由を手に入れた。 もはや不死者と化した真望は、生殺与奪の権を他者に預ける危険な快感に浸っていた。 だが、これは命懸けの快楽だ。常に恥辱を受け続けなけば、精神テンションは整えられてしまい、能力は解除。受けたダメージが全てフィードバックし、死に至るだろう。 (見ないで…!嗚呼、でも戦いたい!戦闘本能が私を支配する) 「真望。お前は戦うために生まれてきたブタだ。ブタはブタらしくブタと叫べ!」 彼の声が聞こえる。目は既に目隠しをされており、光は入らない。 「ブターーーーーッ!」 「ブタはそんな鳴き声をしねえっ!」 見知らぬたくましい殿方。その一撃一撃から、強い想いが伝わる。そう、まるで長年連れ添った夫婦のように。 ただの嗜虐心からではない。彼もまた命をかけている。真望の命を。 (真望にここまでしてくれるこの殿方は、一体何者?) 『心臓マッサージをします。危険ですので離れてください。』 AED装置の危険な機械音声が電気マッサージの時間を告げる。本来は心臓震盪を起こした急患への緊急治療に用いる為の機械。博物館にならどこにでもある医療装置。 『ピーーーーーー!』 だが、不死者が用いることで、心臓の血流を促進し、電気反射で五体を超高速駆動させる為の加速装置となる! AED装置の本領発揮!これが真に地形を利用した戦い方だ! 高速射出された真望がタックルする。七月十は反応できない。絡まりながら壁に激突する。 「ぐがっ!」 「七月十お姉様…拷問に必要なのは主従関係。他には何もいらないのよ」 真望の蹴りを受け止めた七月十が苦しい声を出す。それがまた愉悦を感じさせた。 だが、次の瞬間にはそれがブラフだと気づく。固い鉄を殴った感触。目隠しが取れる。七月十が両腕に抱えていたのは、ボンベだった。 (酸素ボンベ!?いつのまに…いや!これは酸素ではない) ボンベから液化ガスが噴出し、真望に降りかかる。それはすぐさま気体となった。 「気をつけろ真望。それは博物館なら必ず壁に格納している消火用のハロゲン化物だ」 「そうか、ハロゲン化物は鎮火性だけでなく"絶縁性"、浸透力にも優れる。これで私はもうAEDで電気を流せない。なんて博物館を熟知した戦いなの」 「ハァ…ハァ…玉龍拳奥義、ハロゲン化物拳。玉龍拳はあらゆる状況を想定した暗殺拳なんだ。知ってた?真望さん」 七月十は拳を振りかざす。狙いは真望ではなく見知らぬたくましい白人男性。 (七月十に、今の私を一撃で倒す方法は存在しない。ならば…) 真望もまた殴りかかる。だが、咄嗟に殴った相手は、同じく白人男性。これはご主人様を七月十からの攻撃から庇い、尚且つご主人様に抵抗することで後々にお仕置きを頂戴するという、真望と殿方の息のあったコンビネーションだった。 (本当に…初めて会ったとは思えないくらい、私と殿方は相性が良いわ) 七月十の攻撃、真望の攻撃。全く異なる気持ちから生じた一撃が、見知らぬ殿方に炸裂した。 「真望…寝てんじゃ…ねーぞ…」 真望が耳にしたのは、崩れ落ちながら自分を応援する…見知らぬたくましい殿方の声援! ◆◆◆◆ 敵から何度も打撃を喰らうのも、ここまで不覚をとるのも初めての経験だった。 ことここに至り、七月十は見知らぬ白人男性と真望の間の絆を見抜きつつあった。原理はよく分からないが、そういう形の愛は確かに存在するのだ。 見知らぬ殿方は、先に真望から愛の抵抗をうけたことで、七月十の拳の打点を逸らされた。どんな攻撃も、ポイントをズラせば致命傷を避けられる。 それは七月十対策を怠らなかった真望にしかできない愛の形だった。 「真望…頑張れ…負けるな…」 殿方が崩れ落ちる。七月十は…真望を見る! 今や不死者となり、極限強化された恋する乙女を! 「すごく…羨ましい。私も好きな人と結ばれたい」 七月十はできるだけ理解できる範疇で言葉を投げかけた。 「そちらこそ、あなたもきっと誰かのために戦っているのね」 お互いがお互い、恋に恋する少女だと、もう気付いていた。 2人は拳を構えた。 真望は、単純な右ストレートを繰り出した。それは単純ながら、七月の身体を破壊できるであろう一撃。 だが。 「バカな…」 真望の拳を、七月十は軽い跳躍で回避した。 それはまるで、体重10トンとは思えないほどの軽業。玉龍拳のしなやかな身体技法。 「どんな攻撃も当たらなければ意味がない。おばあちゃんの言葉さ」 七月十全力の拳が…炸裂した! ◆◆◆◆ 1発目は耐えられた。2発目で限界が来た。3発目で耐えられなかった。 不死者と化した程の防御力も、ピンポイントで致命傷を与える10トンの拳の前では無力に等しかったのだ。 (たとえ不死でも、気絶するまで殴られれば気絶してしまう) 「真望!負けるな!立ちやがれー!」 (恥辱さえあれば、強くなれる) だが、不思議と恥はない。なぜだろう。 そう考えて、既にそれ以上の辱めを受けたからだと、佐渡ヶ谷真望は気が付いた。なら、こんなところで彼と出会わなければ良かった。 (全てを曝け出した。もう何も恥ずかしくない) 「立て!立つんだ真望ー!」 真望は七月十との友情を感じながら…彼女を67体のゴリラに幻視するほどのダメージを受け…ようやく気絶した。 ◆◆◆◆ 玉龍拳奥義、ゴリラ拳。七月十が自分の体重10トンであることを鑑みて独自に考案した、67連撃である。 実戦で用いるのは初めてだ。 七月十は息を吐き出しながら、見知らぬたくましい殿方を睨みつけた。 「お前は確かに真望の為に戦っていた!だがお前は私たちの勝負に割って入り!初対面の女性を傷つけたクソヤローだ!」 「ああ…そうだな。その事実に変わりはない」 この怒りをどこへぶつけて良いのかわからない。なぜ怒るのかもわからない。だが、法倫理が目の前の男を許さない。 七月十は拳を振りかざした。 「お前の願いを…言え!」 ◆◆◆◆ 「フェム様、七月十が第三者を殴る行為は、外部の人への暴力行為違反に抵触するのでは?」 グロリアス・オリュンピア会場、貴賓席にてエプシロン王国の王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンの侍女ピャーチが冷静に進言した。 フェム王女は顎に指を当てて首をかしげる。 「そうねえ…そもそも、どうやってあの殿方は試合場に入ったのかしら?」 「おそらく七月十の能力による効果かと、フェム様。」 ピャーチの推察には耳を傾けず、フェム王女は試合場のモニターを食い入るように見つめる。 「ピャーチ…カメラを新館のエントランスに切り替えて!早く!」 フェム王女が突如として声をはりあげる。 「はっ?ハイ!」 ピャーチは言われるがまま、モニターを監視カメラ映像に切り替えた。 それは新館のエントランスの映像。一面ガラス張りの壁と、何も置いていない台座が映るばかりである。 「…フェム様?何も映っておりませんが?」 「違うわ。何も映っていないんじゃない!映っていないとおかしいのよ!…十一面観音立像が!」 興奮したフェム王女が立ち上がる! 「あの見知らぬたくましい殿方の正体は新館エントランスに置かれていた十一面観音立像よっ!」 「なんですって、あの見知らぬたくましい殿方は十一面観音!?」 ————ルール上の盲点!十一面観音像を殴る行為は反則にならない! 「そう!アレは七月十の能力によって佐渡ヶ谷真望の願いを託されて命を持った、十一面観音立像よ!!真望の理想の男性なんて存在しなかったのよ!だから真望の願望を真に叶えられるのは御仏様しかいなかった!」 「そんな…!ではあの御仏様の願いは…!?七月十っ!そいつの願いをかなえては駄目ー!御仏様の願いは衆生の救済よ!」 ピャーチもまた立ち上がり叫ぶ。だが、その声は試合場に届かない。 「このままでは衆生が救済されてしまうわー!」 ◆◆◆◆ 圧倒的な破壊痕。奈良国立博物館の建物はすべて破壊され、跡形もない。 クレーターの中心地には、身体が真っ二つに割れた見知らぬたくましい殿方が転がっている。 「バカヤロー!なぜ命乞いをしなかった!」 「俺は…仏像なんだ」 しかし、その切断面はまるで木製の人形のようになっており、血が出ていない。彼は仏像だったのだ。 「お前…仏像だったのか!」 「ああ。俺はずっと博物館に閉じ込められていたから、海外への憧れが強かったんだ。俺の願いは衆生の救済ではなく…ミラノで素敵な女性と恋に落ちることだったのさ」 奈良国立博物館は海外観光客も多い。エントラスに安置された十一面観音立像が海外、特にミラノへの憧れを持つことは何らおかしいことではなかった。 「ならばお前の願いは…ミラノ人に転生することだったんだな」 「ああ。真望の願いは、俺の願いでもあったんだよ」 そういうことだったのか。七月十はすべてを理解し、光の粒子となってゆく白人の殿方を見た。 「おばあちゃんが言っていた…聖アンブロージョ教会のすぐ隣にミラノ拷問博物館というところがあるって。お前はミラノ人になってそこへ行くんだ。真望も必ずそこへ行くだろう」 「拷問博物館か…良い…響きだ…」 仏像は…光となって消えた。 「真望さん…必ず仏像の願いを叶えてやるんだぞ。"真"の"望"みだから…真望なんだろ?」 立ち尽くす七月十。 「はいっ!分かりました!私、必ず彼を追いかけます!七月十"お姉様"!」 返事をしたのは、気絶から覚醒した真望だった。 「えっ?なんでもう起きてるの?能力のせい?」 「勝負は私の負けです!だから私は七月十お姉様の奴隷になります!服従させてくださいっ」 「いやだ。私の方がたぶん年下じゃん。なんか怖い。来ないで」 「あ〜ん、お姉様ったら毒舌〜お待ちになって〜〜」 ◇◇◇◇ これは記憶。七月十が戦うための原動力。 「七月十はさー、"望"みを半分"叶"えるから七月十なのよ」 「へー、じゃあ一族全員誰かの望みの為に動ける奴らなんだ!すごいな!」 高い岩山。雲すら突き抜ける鋭角の斜面に、少年少女が2人座している。 それは、遠い過去の記憶。 「えへへー、そうなの。でも、おばあちゃんがまずは自分の望みの為に生きろって。」 「俺もおばあちゃんの言う通りだと思うぞ。お前も望むがままに生きろ」 少年の顔は夕日に照らされてハッキリと見えない。 だが、少女の真っ赤な表情は少年にハッキリと見えていた。少女は少年にもたれかかり、抱きついて両腕を肩に回す。少女の表情が見えなくなる。 「良いのよ。私の望みはもう叶ってるから。…なんて言って。君もそうやって女の子に簡単に騙されたら駄目だよ?」 「騙されねーよ」 「えへへへへーねえこっち見てー」 他愛ない会話。 だが、どんな女の子でも恋は悪徳にならない。 ◆◆◆◆
https://w.atwiki.jp/shinki_ss/pages/79.html
「SSで読むSSの作り方」は、SS撮影技法をSS掲示板で紹介した記事の スクラップブックです。 …絵で見たほうが早いですしね、実際。 ☆注意! 掲載されたSSのコピペはおやめください。規約違反となります!(記事リンクは可) ※投稿テンプレ ・タイトル(投稿No.)/紹介内容、解説 ・S.P外伝「初心者でも出来る吠莱脚部(ホウライ足)の作り方」(13215) サカユキ氏による、吠莱壱式を使った脚部パーツの作り方。 ・恐れるな!SSは簡単だ!(13203) かーる氏による「元ネタをトレースしたSS作りのススメ」。 ・Kよりお知らせ 「教えて、ナオ先生!」(13177) K-Kurasawa氏による、再現SSの製作工程解説。 ※題材No.12110 ~水○燈~ →第1回(13225) 第2回(13226) 第3回(13229) 第4回(13230) 第5回・(13233) ・ 「教えて、フィア先生!」 ~キャラ2人再現~ K-Kurasawa氏による、再現SSの製作工程解説、その2. ※題材No.10430 ~アクトカ○ンツァ Ver.B風~ →第1回:No.13315 第2回:No.13316 第3回:No.13317 第4回:No.13363 第5回:No.13364 ・龍の頭の作り方(14042) エコノ氏による、ワンユニット竜頭の作り方解説。
https://w.atwiki.jp/goronka/pages/690.html
【作品名】恋姫†無双~ドキッ☆乙女だらけの三国志演義~ 【ジャンル】エロゲ 【先鋒】翠 【次鋒】鈴々 【中堅】愛紗 【副将】恋 【大将】華蝶仮面(星) 【共通設定・世界観】 素早さ:それなりの腕前の剣道家が一振りする程度と 認識する程度の時間しかかけずに剣で蜂の大群を一匹残さず「個別」に両断できる テンプレの5人はそのつまり達人の数万倍の行動速度・反応速度を持っている 【名前】翠 【属性】 馬超 【大きさ】少女並 【攻撃力】槍装備。 一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将以上の攻撃力 無手でも相応。体術を巧みに織り交ぜた戦い方を得意とする。 【防御力】気を放ち万近い敵兵をなぎ払える武将の繰り出す本気の攻撃を受け止めることができる。 直撃を喰らった場合でも重要器官以外なら、耐えて戦闘続行可能 【素早さ】共通設定参照 【長所】美少女 【短所】馬超に見えない 【名前】鈴々 【属性】人間 張飛 【大きさ】少女並 【攻撃力】蛇矛装備。 一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将以上の攻撃力 無手でも相応。体術を巧みに織り交ぜた戦い方を得意とする。 【防御力】気を放ち万近い敵兵をなぎ払える武将の繰り出す本気の攻撃を受け止めることができる。 直撃を喰らった場合でも重要器官以外なら、耐えて戦闘続行可能 【素早さ】共通設定参照 【長所】美少女 【短所】張飛に見えない 【名前】愛紗 【属性】人間 関羽 【大きさ】少女並 【攻撃力】青竜刀装備。 一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将以上の攻撃力 無手でも相応。体術を巧みに織り交ぜた戦い方を得意とする。 【防御力】気を放ち万近い敵兵をなぎ払える武将の繰り出す本気の攻撃を受け止めることができる。 直撃を喰らった場合でも重要器官以外なら、耐えて戦闘続行可能 【素早さ】共通設定参照 【長所】美少女 【短所】関羽に見えない 【名前】恋 【属性】人間 呂布 奉先 【大きさ】少女 【攻撃力】金属削り出しの方天画戟を装備。 一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将二人がかり以上の攻撃力 無手でも相応。体術を巧みに織り交ぜた戦い方を得意とする。 【防御力】気を放ち万近い敵兵をなぎ払える武将の繰り出す本気の攻撃を受け止めることができる。 直撃を喰らった場合でも重要器官以外なら、耐えて戦闘続行可能 【素早さ】共通設定参照 【特殊能力】動物の言葉が分かる。 人外魔境な容量の胃袋。 【長所】美少女。 【短所】呂布に見えない 【名前】華蝶仮面(星) 【属性】人間 趙雲 子龍 【大きさ】少女並み 【攻撃力】槍装備 一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将と同等以上の攻撃力 仮面をつけていると更に3倍強い(設定) 【防御力】気を放ち万近い敵兵をなぎ払える武将の繰り出す本気の攻撃を受け止めることができる。 直撃を喰らった場合でも重要器官以外なら、耐えて戦闘続行可能 【素早さ】共通設定レベルの3人相手を圧倒する素早さ、共通設定レベルでも視認できない速さ 【長所】美人 【短所】趙雲に見えない 【備考】仮面を付けた状態で参戦。 参戦 vol.57 601-602 vol.96 162 :考察無双 未考察だらけの三国志演義?:2010/09/22(水) 18 27 04 ID rTISnV43 恋姫†無双~ドキッ☆乙女だらけの三国志演義~ 考察 『それなりの腕前の剣道家が一振りする程度と認識する程度の時間』を仮に0,5秒として その間に蜂の大群(仮に100匹とする)を全部『個別』に切り刻むなら1秒間に200回剣を振ることになる。 これの数万(仮に2万とする)倍の反応速度なら反応速度は400万分の1秒 400分の1秒で0,85cm先からの音速反応(1m先からのマッハ1,17反応)なので1m先からのマッハ1万1764反応 さらに大将はマッハ3万5300の戦闘速度。 74m先からならレーザーでもかわせる。三国志なのに・・・。 攻撃範囲書いてないから接近戦のみ効果ありと判断し、山破壊あたりから見る ○FF4 【先鋒】死ぬ気で削って勝ち 【次鋒】メテオでは死なず分け 【中堅】カノン砲でも死なず分け 【副将】降りてきた奴らを瞬殺することはできるが船は壊せない、分け 【大将】斬殺勝ち ×逆襲のシャア 【先鋒・次鋒】飛んでるから当たらず分け 【中堅】核兵器の放射線と熱に負ける 【副将・大将】空の敵はどうしようもない分け ○MEN IN BLACK 【先鋒】余裕 【次鋒】みじん切りにし続けて勝ち 【中堅】距離詰めてぶった切って勝ち 【副将】距離取られて惑星破壊負け 【大将】勝てるわけねーだろーが ○ヴァンパイア十字界 【先鋒】突きまくってハチの巣にして勝ち 【次鋒】突きまくっても復活するだろうけど、そのうち昼になって弱体化してその時突きまくって勝ち 【中堅】剣を振る前に切り刻んで勝ち 【副将】攻撃絶対届かないから隕石で負け 【大将】切り刻みまくって勝ち ×ACE COMBATシリーズ 【先鋒・次鋒】海に潜られるとどうしようもない。分け 【中堅】空の敵はどうしようもない分け 【副将】TLS負け 【大将】空の敵はどうしようもない分け ×聖戦士ダンバイン 【先鋒~中堅】バリアのせいで攻撃通らん、空に逃げられ分け 【副将】フレイボムとかじゃ死なないし相手の攻撃など止まって見えるだろうが相手まで攻撃が届かん、分け 【大将】オーラノバ負け ○宇宙の騎士テッカマンブレード 【先鋒・次鋒】カウンター決めて勝ち 【中堅】全方向ボルテッカ負け 【副将】通常ボルテッカにはなんとか耐えられる。突っ込んできた所にカウンター入れて勝ち 【大将】ボルテッカ撃ち込まれ負け 163 :考察無双 未考察だらけの三国志演義?:2010/09/22(水) 18 28 35 ID rTISnV43 ×パワーパフガールズ 【先鋒~副将】秒速8000mなら相手の方が上。攻撃をかわされて宇宙空間に放り出され負け 【大将】凍結負け ×こいこい7 【先鋒】大声負け 【次鋒】追いついても攻撃が当らず分け 【中堅】髪で拘束されても斬れるが相手に攻撃当らず分け 【副将】空の敵はどうしようもない分け 【大将】催眠負け ○アーマード・コア(Nシリーズ) 【先鋒・次鋒】空に逃がす前に突きまくって勝ち 【中堅以降】相手の反応が速いせいで空に逃げられ分け ○幻燐の姫将軍シリーズ 【先鋒】速すぎて相手からは視認できまい、削って勝ち 【次鋒~大将】速度差で有利 ×トランスフォーマービーストウォーズ 【先鋒・次鋒】ぶっ飛ばし系の攻撃には強い。削って勝ち 【中堅】アンゴルモアファイヤー負け 【副将】強すぎ負け 【大将】体当り負け ○ウルトラマンFE0 【先鋒】削って勝ち 【次鋒】下から削って行く間にタール像にされ負け 【中堅】互いに決め手なし 【副将・大将】削り続けて勝ち ×ZFマジンガー 【先鋒~副将】でかすぎて削り切れず分け 【大将】ハルマゲドンファイヤー負け ×サヴェッジサイエンス 【先鋒~中堅】倒せない倒されない 【副将】大陸間弾道大陸負け 【大将】相手がこちらの斬撃をコピーしようがどうせ当りはしない、ヘルティックキャノン連発負け ○魔界塔SAGA 【先鋒・次鋒】100発叩きこむのに数万分の1秒もかかるまい、勝ち 【中堅】バリアはってるので分け 【副将・大将】100発叩きこむのに数万分の1秒もかかるまい、勝ち ×超獣機神ダンクーガ 【先鋒】削って勝ち 【次鋒】逃げられ分け 【中堅】雷負け 【副将】でかすぎ負け 【大将】頑丈すぎ分け 164 :考察無双 未考察だらけの三国志演義?:2010/09/22(水) 18 30 45 ID rTISnV43 ○五星戦隊ダイレンジャー 【先鋒】2000m級の山破壊に耐える相手を倒すのは無理、大秘術負け 【次鋒・中堅】結構頑丈だがまあ倒せない事もあるまい 【副将】なんとか削って勝ち 【大将】催眠術負け ×ディメンション・ゼロ 【先鋒~副将】分け 【大将】完敗 ×仮面ライダーJ 【先鋒~中堅】倒せない倒されない 【副将】反重力光線連発負け 【大将】ジャンボライダーキック負け (マジンガー)×○×○○××○△×○○×(FF4) 下には勝ちこし。十字>メンイン、メンイン>シャア、シャア>十字なので 逆襲のシャア>恋姫無双>ヴァンパイア十字界>メンインブラック 旧・和風の壁(天外魔境)くらいまで行くと思ったんだけどなー、どこでこんな風になったんだろう? 165 :格無しさん:2010/09/22(水) 19 09 35 ID KgL+0lJE 163 攻撃力だけで射程も移動速度もないからNシリーズも引き撃ち、 あるいは射程ギリギリでブレード振られるだけで何も出来ずに乙るんじゃね? 短距離速度は速くても遠距離速度が全く書かれてないし つーか遠距離移動速度達人並以上で射撃メイン、かつ戦法で距離を取る奴相手だと分けしか取れない気が 幻燐は削り合いで殺しきる前に飛竜並みの速度で移動→範囲攻撃で、範囲攻撃のない次鋒以外負ける 特に中堅以降は戦法が範囲攻撃を撃つ、だから逃げながら撃ちまくられる 次鋒ですら削り殺す前に一方的に殴られ続ける距離から離脱→遠距離攻撃連打で分け、或いは不老不死による寿命負けだと思う 先鋒の場合は遠距離移動速度があれだから距離とって見られるだけで終わる 射程の長い「一撃で数キロ四方にいる万近い敵をなぎ払える武将」本人出した方が良いって、これ 166 :格無しさん:2010/09/22(水) 19 16 16 ID KgL+0lJE あ、開始距離の問題で一撃で死ぬ相手なら先に殺せるか でもある程度耐えられる相手だと殺す前に離脱されて逃げながら撃ちまくられるだけで詰むね 172 :格無しさん:2010/09/23(木) 00 02 57 ID zrl47L4I 162 1秒間に200回剣を振るのはあくまで行動速度であって その達人とやらの反応は不明なんだから その達人を人類最速の0.13秒反応としても 1m先からの秒速153km反応じゃね? あと、三対一で圧倒したってだけで戦闘速度が三倍になる根拠は? というか大将反応かいてないからせいぜい達人並の反応にしかならんだろ、これ vol.97 33 :けじめをつけるために:2010/10/26(火) 00 23 59 ID 1S0+yzbD 恋姫無双再考察。前回失敗したので、今度こそけじめをつける。 達人の数万倍を仮に2万として、戦闘速度を達人が10m/sとすると200万m/s=マッハ5882 0,2秒反応の2万分の1反応だから10万分の1秒反応、マッハ294反応。うわ、やっぱすげえ。 555くらいまでは余裕だからその上を見る △ベアナックル、バトルマスター 倒せない倒されない ×仮面ライダーZO 【先鋒】瞬殺 【次鋒】倒せない倒されない 【中堅】隔離負け 【副将】水星レーザー負け 【大将】速すぎ分け ×ドラッグオンドラグーン 【先鋒】追尾弾負け 【次鋒】魔法負け 【中堅】土下座されつつ歌われて負け 【副将】追尾弾負け 【大将】ミサイル何ぞ効くまい。分け ×うたわれるもの 【先鋒・次鋒】まあ普通に勝ち 【中堅】レーザー負け 【副将・大将】オーラ負け 下を見る ○仮面ライダー555 【先鋒~大将】素早さが段違いなので瞬殺出来る ○チャージマン研 【先鋒】何回も突いて壁を破れば後はたやすい、ブスブス内部を刺しまくって勝ち 【次鋒~大将】倒せない倒されない ○ファミコンウォーズDS 【先鋒】いくら早くても所詮戦艦、以下チャー研と同じ 【次鋒】まだ壁を破って侵入できるか、勝ち 【中堅・副将】倒せない倒されない 【大将】吸収負け ×鉄コミュニケイション 【先鋒】まだ何とか倒せる 【次鋒以降】失明して行動不能負け ○FF2 全員瞬殺 バトルマスター>ベアナックル=恋姫無双>仮面ライダー555
https://w.atwiki.jp/akuto/pages/18.html
■魔法先生ネギま! ■ぱにぽにだっしゅ! ■スクールランブル ■魔法少女リリカルなのは ■ToHeart2 ■Canvas2 ■SHUFFLE! ■D.C.S.S ■まほらば ■バーロー ■あるある ■かしまし~ガール・ミーツ・ガール~ ■撲殺天使ドクロちゃん ■灼眼のシャナ ■Fate/stay night ■機動戦士ガンダムSEED DESTINY ■BLOOD+ ■極上生徒会 ■ふたりはプリキュア マックスハート ■ローゼンメイデン トロイメント ■苺ましまろ ■ef - a tale of memories. ■ef - a tale of melodies. ■けいおん! ■咲-Saki- ■かなめも ■大正野球娘。 ■神無月の巫女 ■ハヤテのごとく!! ■戦場のヴァルキュリア ■うみものがたり~あなたがいてくれたコト~ ■とある科学の超電磁砲 ■DARKER THAN BLACK 流星の双子 ■生徒会の一存 ■聖剣の刀鍛冶 ■けんぷファー ■にゃんこい! ■夏のあらし ■ミラクル☆トレイン ■そらのおとしもの ■ささめきこと ■君に届け ■NEEDLESS ■双恋 ■エルフェンリート ■なるたる ■攻殻機動隊 ■新・恋姫無双 ■11eyes ■キディガーランド ■戦う司書 ■こばと ■クイーンズブレイド ■あにゃまる探偵キルミンずぅ ■テガミバチ ■乃木坂春香の秘密ぴゅあれっつあ♪ ■とらドラ ■バカとテストと召喚獣 ■おまもりひまり ■ひだまりスケッチ×☆☆☆ ■おおかみかくし ■はなまる幼稚園 ■ダンスインザヴァンパイアバンド ■聖痕のクェイサー ■ソ・ラ・ノ・ヲ・ト ■デュラララ!! ■ちゅーぶら!! ■れでぃ×ばと! ■WORKING!! ■Angel Beats! ■荒川アンダーザブリッジ ■おおきく振りかぶって ■迷い猫オーバーラン! ■閃光のナイトレイド ■一騎当千 XTREME XECUTOR ■真・恋姫†無双~乙女大乱~ ■B型H系 ■会長はメイド様! ■いちばんうしろの大魔王 ■Kiss×sis ■RAINBOW 二舎六房の七人 ■オオカミさんと七人の仲間たち ■黒執事II ■アマガミSS ■伝説の勇者の伝説 ■祝福のカンパネラ ■生徒会役員共 ■セキレイ~Pure Engagement~ ■学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ■世紀末オカルト学院 ■ぬらりひょんの孫 ■ストライクウィッチーズ2 ■屍鬼 ■あそびにいくヨ! ■戦国BASARA 弐 ■みつどもえ ■とある魔術の禁書目録Ⅱ ■俺の妹がこんなに可愛いわけがない ■そらのおとしもの f (フォルテ) ■もっと To LOVEる -とらぶる- ■バクマン。 ■心霊探偵八雲 ■STAR DRIVER 輝きのタクト ■侵略!イカ娘 ■えむえむっ! ■スーパーロボット大戦OG-ジ・インスペクタ- ■おとめ妖怪 ざくろ ■神のみぞ知るセカイ ■ヨスガノソラ ■百花繚乱 サムライガールズ
https://w.atwiki.jp/unkotinkonyan/pages/105.html
仮面ライダーウィグリ、高取春一がミラーワールドに入り、いつもの様に変な形の乗り物に乗り、校庭に着くと既に先客が居た。 レイヨウ型モンスター三匹を相手に孤軍奮闘しているそのライダーを見て、ウィグリは「あぁ…木馬に先越されたか…。」と呟いた。 男子生徒の間では近ごろ、同じクラスの木馬愛花が鏡の中に出入りできる、というウワサで持ちきりだった。 木馬が鏡から出てくるところを数人の男子が目撃したのだ。「そんなこと、あるわけないだろ」と春一はその場を笑い飛ばしたが、すぐに木馬がライダーではないか、と疑った。 そしてそれは、確信に変わっていった。女子ならば、授業中にてさげを持ってトイレに行く、なんてことはよくあることだ。しかし木馬の場合は、その頻度が尋常ではないのだ。しかも、春一の耳にモンスターの存在を知らせる金属音が届くのと同じタイミングで、だ。 普段から独り言が多いウィグリは「じゃ、どーんといきますかね」と呟いた。 三匹を相手にするのはツラかった。ぱかぽこはそろそろスタミナ切れ、といったところだ。 「そろそろ終わらせたいんだけどッ…!」 イライラし始めたぱかぽこの、普段は言わない独り言である。 「とぅー!」ぱかぽこはモンスターの突進をかわしつつ、空高くジャンプした。そして「ルァイダァァァァキャァァァァ!」とか叫びつつ斜め下に急降下して、モンスター一匹に跳び蹴りを決め、カッコ良く着地した。モンスターは後ろで爆発、コアが飛び出す。 残りのモンスター達がうめきながらぱかぽこの背中に迫る。「あぁ…まだ居たんだっけ…?」ぱかぽこはめんどくさそうに、極めて小さな声で呟く。ぱかぽこが構えたそのとき、 「エクスベント」のコールが棒読み気味に響いた。 「へ?」ぱかぽこが振り向く間もなく、残りの二匹のモンスターが大爆発した。ぱかぽこも爆風で吹っ飛び、校庭の野球場のバックネットに激突した。 「こんにちは、木馬。こんなとこで会えるなんて、運命かもね。」起き上がろうとする木馬に、黒いスーツに派手な赤いラインが入ったライダーが歩みよった。 「ウィグリ…?誰?」ぱかぽこは脳裏に浮かんだライダーの名前を呼んだ。 「あれ?わかんない?同じクラスの高取だよ。」 「あ…うっそぉ!?はるいち君!?」 クラスではそう呼ばれていた。もっとも、木馬は「春一」が「しゅんいち」と読むなんてことは知らないのだが。 「そ。はるいち君です。どうも。」 その返答に、木馬は深く考えずに少し嬉しくなった。同じクラスに、自分と同じライダーが居た。 しかし、「ソードベント」のコールで木馬は我に返り、目の前の人物が敵であるかも、と認識を変えざるを得なかった。 いつの間にか、ウィグリの手には、鳥の羽根のような刀が握られていた。ぱかぽこに逃げるような体力はもうない。吹っ飛ばされた影響か、体中が痛む。 「木馬が死んだら悲しむ人をたくさん知ってる。男子の間では結構人気あるよ、木馬は。」 「あ、やっぱり?」 ウィグリの言ってることが冗談かどうか分からなかったがぱかぽこは一応のっておいた。 「でもね、これって仕方ないことだと思わない?このゲーム、そういうルールらしいしさ。」 「ちょっと待ってよ。もしかして…わたし殺される?」ぱかぽこはウィグリのセリフを遮った。 「だから、仕方ないんだって」 「ちょっと待ってよ!」 「なにさ?」次第にウィグリはイライラしてくる。 「死にたくない、死にたくないんだって…わたしまだ死にたくないんだって!」 「わかんない奴だなぁ…。」 「助けてよ…!」 ウィグリは自分の足にしがみつき、哀願するぱかぽこを蹴飛ばした。 「あう…!」 ウィグリに蹴飛ばされたぱかぽこはまた2メートル程吹っ飛び、バックネットに激突した。 「げほッ…げほッ」 咳き込むぱかぽこをしばらく何も言わずに眺めるウィグリ。そして 「仕方ないなぁ…。」と呟く。 「え!?助けてくれるの!?」 「その変わり、俺の奴隷でもなってもらおうかな…。」ウィグリは含み笑いをしながら言った。 「奴隷すか…!?奴隷っていうと…あんなことやこんなことを…いや、わたしには彼氏が…」 「ばーか。冗談だって。」ウィグリは笑い飛ばした。 そしてこう言った。 「木馬の知ってる他のライダーの居場所を教えろ。」 「そんなんでいいの!?」 「あぁ。教えれば助けてやるよ。」ウィグリはへたり込むぱかぽこに手をさしのべる。 その手をつかみながらぱかぽこは 「おやすいご用ですよご主人様」と言った。 「それじゃあ奴隷じゃなくてメイドだな。」ウィグリは小馬鹿にしたように言いながら、ぱかぽこを立たせてやった。 ミラーワールドから出た二人はお互いの姿を確認した。 「喫茶店…たしか、「あとり」って名前の。そこにライダーが二人居るよ。」 ぱかぽこは自分の知る、蓮と城戸さんの情報をウィグリに教えた。 「ふーん…。木馬さ、放課後ヒマ?」 「え?ヒマだけど…?」 「じゃさ、その喫茶店まで案内してよ。」 二人の間に少し沈黙が流れる。 「ちょっとしたデートだね。」 木馬の身も蓋もない一言でそれは破られた。
https://w.atwiki.jp/dngssl/pages/377.html
MVP投票 ベストSS結果 MVPベストSS 【庭園】SS その1(得票数:8) 総投票数:29票 1位:【庭園】SS その1(得票数:8) まさかの劇場版ダンゲロスsslight。対戦SSというレギュレーションの補正で負けてしまったけれど、単品としての面白さは本当に随一だったと思います。出海九相……まことに佳き漢であった……。あと、庄部、お前そんなに強かったんか……! 次々と登場人物の出る内容にただひたすら圧倒されました 2位:【クラブ】SS その1(得票数:4) 対戦相手の描き方が常軌を逸して上手かった 2位:【砂丘】SS その1(得票数:4) 無茶苦茶やってるのにちゃんと筋が通ってて面白かったです。 特に甲乙つけがたかったステージで、でもやっぱりこっちが好き…ということで。 3位:【夏祭り】SS その1(得票数:3) 天桐鞘一と言う男が、本気でやばいやつだとはっきり認識したのはこのSSでした。七白ぼたんのトレース、能力バトル、天桐の格好良さ、決まり手の鮮やかさ。そして何よりエピローグ。一つたりとも綻びがなく、恐ろしい精度でした。この戦いに関しては、本当に5000文字ではありえないような完成度だったと思います。 4位:【倉庫】SS その1(得票数:2) コメントなし 以下5位:(得票数:1) ダンジョン SSその2恐ろしく高い密度、5000字以内という制約があったからこそこの濃密なSSが生まれたのだと思ってます。それにしても地底人はどうしているのだろう。 プロローグ(黒羽 イト) 後ろの怪異プロローグ 庭園 その2(アブ・ラーデル18世vs出海九相) 溶岩地帯その1 【溶岩地帯】SSその2 【廃坑】SS その1 【廃坑】SSその2強かったんだよな~!絶対負けたと思ってた。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/724.html
悪魔な召使い これは、ネコの国の都からちょっと離れた小さな街の物語.... 「今日も良い天気だ!」 勢い良く開いたカーテンの向こうには空高く登って輝く太陽。やたら眩しいのはきっと気のせいだ。 昨日の夜も3時まで営業していた酒場のカウンターには、空いたグラスとか瓶が放置されている。 これを片付けるのは全部僕の仕事。多分まだご主人様は起きてこない。 「よっこいしょ」 椅子に登ってそっと割らない様に集めては流しへと運び込む。 出来るだけ音を立てないように、ちょっとだけ時間減速魔法を使うのは最近気が付いた便利な裏技だ。 試しに使った時はご主人様も驚いたけど、でも僕の正体を知っちゃうと、何も言わなくなった。 あ、そうそう。自己紹介がまだでした。 僕はメグス。フルネームはメンドクサイから省略ね。 魔界でも有名なメフィスト13世記念大学の付属学校で優秀生徒クラスに居たんだよ。 ちょっとだけ自慢してゴメン。 天使と闘う授業の真っ最中に空気読めない天使がおばかな大技使ったらゲートが開いちゃってさ。 気が付いたらここに来てたってわけ。こう見えてもまだ200歳だから子供なんだ。 なんかご主人様が言うには8歳くらいにしか見えないらしいけどね。 そんな訳で僕はご主人様に拾われたって事になってる。 一応ね。知らない世界に飛ばされて世話をしてもらったから、まぁ、しばらく居ても良いかなって思ってるんだけど。 でも、パパもママも心配してるだろうなぁって最近思うんだ。僕、これでも跡取りだから。 実は結構名家なんだって自慢したいんだけど、誰も価値をわかってくれなくてさぁ それが最近悩みの種かな。 あ、なんか気色悪い不細工なネコのおばちゃんとかおねーちゃんが営業時間に言い寄ってくるのも困ってる。 男日照りで日干しカラカラだからってさ、未成年の男の子に欲情立つのって変態だよね。変態。 僕の家に時々遊びに来てた淫魔のおねーちゃん達も、あいつらは手に負えない真性だって言ってたし。 やっぱ男と女が絡み合ってるところに介入してオドを吸い取るのが良いんだけどさぁとか言われると、あの業界も大変なんだなって思うよ。 まぁ人の好みは好き好きだからあんまり言わないけど、でも営業時間中にいきなり僕のズボン下ろすのはやめて欲しいよ。 このあいだなんかビックリして咄嗟に彫像の呪文使っちゃってさ。 僕まだこの魔法の解き方知らないんだ。 気色悪いにやけ顔で僕のおちんちんを弄ってたこのドブスがさ、このまま石になってるんだ。 重いから店から出すわけにもいかないし、邪魔だよねぇ。 いっそトンカチで壊しちゃおうかって思ってるんだ。 そのまま河原にでも捨てておけば、この邪魔なブス猫のお尻も漬物石位にはなるかも知れないし。 「ふぅ」 やっとグラスを洗い終わったぞ! 今度は空き瓶を片付けて....と。 前に一度だけ空き瓶に使い魔の魔法を仕込んだたらご主人様がビックリしちゃってさ。 それ以来やってないんだ。あのほうが簡単なんだけどねぇ。 瓶を片付けたらお店の中を掃除して、カウンターを水で拭いて終り。 さて、今日はご主人様何作ってくれるかな? 早く起きてこないかなぁ 昨日の夜はたっぷりと魔界の魔素をご主人様に注いであげたから、まだ起きてこないかなぁ そのうち僕無しじゃ生きていけなくなるよ。禁断症状で。 だって僕は悪魔だもん。手ぶらじゃ家に帰れないよ。 きっとご主人様はうちの家の使い魔と仲良くなれるよ。 みんなヒトの世界から連れてったのばかりだからさ。 楽しみだなー パパもママも褒めてくれるかなー あ、なんか2階がゴソゴソいってる。 時間転移の魔法も使っておいたから、目が覚めてからまた昨日の夜と同じ快感を2時間近く味わってイキっぱなしだね。 ご主人様。早く慣れてね♪ あー今日も良い天気だ。
https://w.atwiki.jp/schwarze-katze/pages/227.html
無垢と未熟と計画と? 第3話(前編) 「ねぇ、かーさん」 「ラヴィニア、ちょっと待ってね……ん、何かしら?」 晩御飯のシチューのお鍋をミトンを使ってリビングへ持ってくるかーさん。 今日のは上出来らしくて、後ろで纏めた灰色の髪がぴょこぴょこ機嫌よく揺れている 「なんでとーさんと結婚したの?」 「――げほっ、げほっ!」 「あ、それはわたしも聞きたいかも」 私の何気ない質問にとーさんは咳き込んで、暖炉の近くで暖まっていたロレッタが興味深そうに寄ってくる。 「んー、お見合いなんだけどね……これがもう喋らない人だったのよ、けどちゃーんと優しい人って事が分かったこうやって結婚して貴方達がいるのよ」 「…………ヘーゼル、その辺にしておいてくれ。恥ずかしい」 とーさんがもこもこの毛を震わせて小さく呟く。 顔が良く見えないけど、居心地悪そうに耳を震わせている。 「ふふ、あなたもしかして……照れてる?」 「そんな事はないぞ、うん」 「ほんと~?」 「ほんとだ」 「それじゃ、愛してる?」 「……あぁ」 「ちゃーんと、言ってよ~」 「……なんというか、子供の居る前でな……」 かーさんがそれはもう楽しそうに、とーさんとイジめ倒している……これはちょっと長引きそうだ。 「あー、とーさん、かーさん。仲いいのは分かったからご飯食べたいんだけど?」 ちょっと呆れ気味の口調でロレッタが突っ込むと、とーさんは安心したように深いため息をつく。けれど、かーさんは、 「仕方ないわねー。一度だけでいいわ……"愛してる"って言って頂戴?」 かーさんらしいというかなんと言うか……言わなかったらとーさんのご飯減らされるんだろうなぁ……。 「あ、愛してる。ヘーゼル」 「あはっ♪ 私も愛してるわあ・な・たっ」 ……見るのも聞くのも毒だわ。 かーさんがとーさんに勢いよく抱きついて甘い声だしてるのも、とーさんがこっちをちらちら様子を伺いながらかーさんを抱き締めているのも知らない。 知らないったら知らない。 「……あら、2人とも暖炉の傍で何やってるの?」 後ろ向いて耳を押さえてた筈のなのに胸焼けがして、ロレッタと互いに背中をさすり合う……流石、かーさん。雰囲気だけで私達を酔わせるなんて ……本当にタダ者じゃない。 「この際だから、2人に言いたいことがあるの」 「な、なに、かーさん?」 胸焼けからいち早く復帰したロレッタがかーさんの方へ振り向く。私といえば、まだ苦しみ中だ。 「女の子は何時まで経っても『お姫様』。それを忘れなければいつか『王子様』が来るわ……それまで自分のやれる事を最大限頑張りなさい」 「「……」」 かーさんが、あまりにいい事を言ったので思わず振り返ってその綺麗な顔をまじまじと見つめてしまった。 ちらりとロレッタの方を見てみると目と口を大きく空けて驚いているみたい。 「ほーら、間抜けな顔してると『王子様』が逃げちゃうわよっ!……あ、そうだ、あなた。小皿持ってくるの忘れたからお願いできるかしら?」 「あぁ」 そう短く答えると、もそもそと、とーさんは台所の方へ消える。 「ラヴィニア、ロレッタ……」 とーさんと手伝おうと、追っかけようとしたけれどかーさんに呼び止められる。 私の戦い方の先生をしている時の声はとっても怖いけど、今はすごく優しい。 「え……ちょっと……」 「うわわわっ」 ぎゅうぅぅっと2人そろって抱き締められる。 決して強くは無いけれど、何故か胸が締め付けられるような……そんな感じだ。 「貴方達は、素直じゃないし、男の子が引くような強気になる事も多いだろうし……なにより不器用だから損することも多いと思う」 そこで一旦、かーさんは切る。そして一息。 「ロレッタ……貴方は周りを確かめることばかりで自分を見ない事が多いわ。だから気をつける事。いい?」 「……うん、分かった」 「ラヴィニア」 「は、はいっ!?」 何を言われるのかが怖くて体を震わせる私。 でもかーさんの声はとても優しかった。 「貴方は、前ばかり見て自分を損なうことを恐れないのがダメよ。……まぁ、『王』としては美徳なんでしょうけど女の子なら一度でもいい ……男の子に守ってもらいなさい」 「守って、もらう?」 いまいちその概念が分からない。 「そうしたら、貴方はいい君主にもいいお姉ちゃんにも……いい『お姫様』にもなれるわ」 「うん……頑張ってみる」 よく分からないけれど、心の奥に響く言葉だった。 うんっ、頑張らなきゃね! 「ヘーゼル。どこにあるんだー?」 「あ、今行きまーす……それじゃ2人とも手を洗ってきなさい」 ちょっと奥からとーさんの困ったような声。 それに返事をしたかーさんは、私達を放して洗面所の方へぽんっと押した。 ――あの時は分からなかったかーさんの言葉。 あれから10年……今更ながら分かった気もする。でもここは夢の中、起きたら忘れてしまう真実。 それでも今だけは、分かった事を大事にしたいと思う。 § § 1 § § がたごとと足元からの振動が俺の体をを微妙に揺らし、窓から見る風景がゆっくりと流れていく。 「……はぁ」 何の因果か、俺はご主人様と馬車に揺られて既に三日目。 最初は初めて乗った馬車が珍しくて楽しかったが、山と平地と川ばかり見せられては流石に飽きもしてくる。 仕方ないので、昼寝でもしようかと思ったが馬車に揺られるという経験が無い俺にはちょっと難しい。それともう一つ。 「……んん」 俺の体に体重を預け、頭を肩に乗せてぐっすりと寝こけるご主人様。 誰も居ない事をいい事にひたすらべったりしていたかと思うと、いつの間にかこの体勢でだったので逃げようが無い。 「んふ」 お、笑った。いい夢見ているといいのだけれど。 それはともかく、こうやって居眠りしている横顔は贔屓目を抜いても、無邪気でとても可愛い。 しかし、なんでこの人は俺に対してこうも無防備でいられるのだろうか? 二人っきりになるとこうやってべたべたしてくる事が最近増えた。 嫌……ではないけれど、こういう態度を向けられたのは初めてでどうしていいか全く分からないし、もしもねえさんに聞けるとしたら『自分で考えなさい』といわれるのがオチだろう。 好意の類なのだろうけど、返し方も受け取り方も分からない俺には流すしか方法が無い。 ――と、石でも踏んだのが馬車が一瞬大きく揺れると同時に、 俺の肩にあったご主人様の頭が、俺の太ももの辺りへ落ちる。 「ぅ……んんんっ」 流石に起きるかと思ったが、眉を一瞬顰めただけで表情にはなんら変わりが無い。 しかし、寝心地が気に入らないのか、まるでおがくずを掘って寝床を確保するハムスターように頭を回し、整地が終わるとまた静かに寝息を立て始めるご主人様。……どうやらこだわりがあるらしい。 「全く、貴女は俺に何処に連れて行く気なんですか?」 さまざま問題は山積みだが目の前にあるのはコレなのだが……そんな事を考えながら、その 寝顔をじっくり鑑賞しているともぞもぞとご主人様が動き出す。 「ん、む……リゼット?」 「は?」 むくりと顔を上げた第一声がコレ。 寝言かと思った直後、馬の蹄の鳴る音と共に馬車の扉から3回ノック音。そちらの方を向いて みると馬に跨ったリゼットさんの姿が見える。 「二人とも、起きてるー?」 「えぇ、大丈夫よ」 「あ、はい」 俺がボケっとしている僅かな間にご主人様は寝癖を直し、居眠りの痕跡を掻き消して平然としている姿は流石というかなんと言うか。 「商会のキャラバンは周りの村に行くけど、この馬車はこのまま町に向かうんだけどいい?」 「えぇ分かったわ。……という事は夕方に着く訳だけどいつもの所に泊まればいいのね」 「予約はしてあるから、私の名前出せばいいはずよ……リョウ君、大丈夫?」 分からない話を聞かされてチンプンカンプンな状態な俺はかなり間抜けな顔をしていたのだろう、それを心配してかリゼットさんが声を掛けてくる。 「何で馬車に乗っているのかという所から説明が欲しいですが……?」 「ラヴィニア、リョウ君を説明して連れてきたの?」 リゼットさんの質問に口に手を当てて考え込むご主人様。その間、わずか数秒。 「……おかしいわ、説明した記憶が無い」 「当たり前ですッ!」 あー、頭痛くなりそう。と、俺が頭を抱えている間にも事態は進行する。 「色ボケするには早すぎるだから、ちゃんと説明しておきなさいよ?」 「そうするわ……って、誰が!いつ!色ボケしたのよッ!」 「じゃ、指示ださなきゃいけないから」 「質問に答えなさい~っ!!」 ご主人様は扉から身を乗り出して抗議するが時既に遅し。リゼットさんは馬に乗ってさっさと前の方へ行ってしまう。 その後姿を眺める事しか出来ないからか、ご主人様の表情はかなり悔しそうだ。 「うぅ……いつか、いつか勝ってやる……と、それはともかく」 結構落ち込んだように見えたが、すぐにいつものご主人様に戻る。この切り替えの早さは正直羨ましい。 「リゼットの商会本部がこの先の都市にあるの。それと同時に達の町への移民の裏口にもなってるの」 「移民?」 確かにネズミだけでなくイヌやトラも居たが、その人達は移民だったのか。 「まぁ、何らかの事情で故郷に居られなくなったり、行き倒れを引き取ってるだけなんだけどね」 「あれ、ネズミは隠れてるんじゃ?」 俺のその問いに満足げにご主人様を頷き、説明を続ける。 「良く覚えてたわね。勿論、理想は完全隠蔽だけど今の時代それは不可能よ。だけど最小限度に抑える事が出来る」 「具体的には?」 「他の種族を用いての接触、商会を通して情報操作が主よ……昔はピンポイントな力技も使われたけどね」 「ピンポイントな力技?」 「……要は暗殺よ」 ご主人様は顔を曇らせ言いづらいからか、間をしばらく空けて答える。……言葉尻から予想は付いたがそこまでしてたのか。 「ま、まぁ、お婆様の時代辺りからそういうのも消えたし今は無いわ。で、本題よ」 強引な話題変更だが、これ以上薮蛇をするのもちょっとアレだ。 「商会の情報操作をする以上、私達も情報に精通しなきゃならないの。ここまではいい?」 「はい、大丈夫です」 俺の返事を確認し、ご主人様は口を開く。 「必然的に、私達には不要な情報も入ってくる訳だけど、そういうのは売って予算の足しにするの」 かなり上機嫌に説明する姿を見ていると、多分教えるのが好きなのだろう。 生まれが違っていれば恐らくいい先生になっただろう……いけないいけない、しっかり聞かないと後が怖い。 「情報の売り買いする場所を地下に作ってあるの……それが"迷宮"よ」 「"迷宮"?」 ただの場所なのにやけに重々しい呼び名だ。 「元は地下下水の筈だったんだけど計画は頓挫。そこを私達が改造して、素人が案内人なしで入り込むと死ぬから"迷宮"なの」 「でも、ネコの国の役人とかが見に来ないんですか?」 幾ら頓挫した計画とはいえ、事故が無いように見て回ると思う。 「ネコってものぐさだからね、まず来ないわ。まぁ来ても賄賂か脅迫で何とかするわ」 ……『賄賂か脅迫』なんて物騒な台詞をにこやかな表情で言われても、そのなんだ、答えに困る。 そんな考えが顔に出ていたのだろう、ご主人様は苦笑していたが、途端に弱気そうな笑顔に変わる。 「そこの視察ってのが今回の名目なんだけど、私としてはりょーにも他の街を見せたいってのもあるんだけど……嫌?」 「……断ったら俺はここからどうやって帰るんですか?」 歩きは論外、それ以前に俺は帰り道を知らない 「えーと」 「大体、ご主人様は強引な所があるんですから、他人の事情を考えるとかしましょう」 「……はい」 「思いつきもいいですが、たまには予定通りに動いてください……仮にもスケジュール管理してるんですからね」 「…………はい」 調子に乗って説教をしてみるが効果は絶大。萎れた花のようにしょぼくれているご主人様。とはいえ、余り落ち込んで暗くなられても具合が悪い。 ちょっとはサービスしたほうがいいかな? 「……?」 「ごめんご主人様、言い過ぎたよ」 俺が取った手法は極めて単純。頭を撫でる事だ。 今までの経験からこれで落ち着くはず、なのだがご主人様は押し黙ったままだ。 「あー、嫌なら止めるけど?」 「い、嫌じゃないわ」 頭を撫でていると耳が右にびくびく、左にふらふら。なにを考えているのか分かりづらい事この上ない。 「そりゃ良かった。あっちに着いたら案内お願いできますか」 「う、うん」 一応綺麗に纏めたかな? そう思って、撫でていた手を離そうとすると手首をご主人様にしっかり掴まれてホールド。 「えっと、話止めれないですけど……?」 「私が『やめていい』って言うまでやってくれないかな……ダメ?」 「べ、別にいいですよ」 この発言はかなり予想外。だが、上目遣いでそんな事を言われたら俺には断れない。 結局ご主人様が『やめていい』と言ったのは、商会の本部があるという都市の壁門につく直前だった。 迂闊な事はやるもんじゃない……改めて俺はそう学んだ数時間だった。 「じゃ、後はよろしくね」 「御意に」 ご主人様は馬車の御者さんにそう言うと、俺の手を引っ張って歩く。 いつもなら耳の様子を見て楽しむのだが、今回は頭まですっぽりとフードを被って、俺もご主人様も揃って変装(?)。 日中なら不自然極まりない格好だが、街の中に入った頃には既に日が落ちていてあんまり目立たない。 「りょー、お腹空いてない?」 「保存食ばかりでしたから、空いてますけどホテルでも取れるんじゃ?」 「この格好でホテルの食堂いけないでしょ?ルームサービスも面倒だしね」 少なくとも俺がヒトだと知られればいろいろ面倒な事になるのは容易に予想できる。 「で、どう?」 「やっぱり、立派ですね……」 石畳はネズミの集落と同じだが、整備のレベルが違う。全くといっていいほど隙間や段差がないほどだ。 さらには日が沈んだばかりだと言うのにガス灯の様な物に火が灯り始めている。 「私としては、目指すはココなんだけど……やっぱ資本のレベルが違うわね」 苦笑を折り込んで、そんな事を言うご主人様。 確かに建物はところ狭しと並び、かなり繁盛しているように見える。……けどさ、 「なにも卑下する事ないでしょうに。ここにはここの、あっちにはあっちの良さがあるんですから、ね?」 「……そうね、ありがと」 「どういたしまして」 それっきり会話も無く、ただただ、ご主人様に手を引かれるだけの俺。 耳が見えないからいまいち確証はないけど、機嫌が良くなったように見える。 「それじゃココで食べましょ。ここの主人がリゼットの実家の知り合いみたいで協力してくれるのよ」 「へぇ」 覚えられないくらい曲がりくねった道を通り、たどり着いたのは小さな木造の食堂……というか酒場だ。 見た目はかなりボロだが、中からはかなり騒がしい笑い声が絶えず聞こえてくる。 「ほらほら、行くわよ」 「え、えぇ」 ご主人様は戸惑う俺を引きずる様に入ると、かなり濃い酒の臭いが充満していて、その濃さに酔ってしまいそうになる。 「大丈夫?」 「慣れれば、なんとか」 「無理しちゃダメだよ? さてオヤジさんいるかな?」 ご主人様は、きょろきょろと見回しながらカウンターへ。 勿論、手を繋いだままなのだが、俺を心配してかたまにこちらを見るものだからちょっと危なっかしい。 「ん……お嬢様、連絡は受けています」 俺がハラハラしていたのだが何事も無く目的のカウンターに着くとそこにはかなり年を取った様に見える男のネコさん。 手が広いと聞いてはいたが、ここまでとは流石に思わなかった。 「そ、そこまでリゼットに読まれてたのね……とりあえず腹ごしらえしたいんだけどいいかな?」 「分かりました、こちらがメニューです」 俺とご主人様を席に座り、渡されたメニューを開く。 「私はこれとこれ……って、りょー読める?」 「あー、無理です」 文字の拾い読み程度ならまだしもメニューが読めるまでは流石に無理。出来れば早く覚えたいのだけれどこれだけはどうにもならない。 「とりあえず、干し肉ばかりだったんで野菜が食べたいかなーと思うんですけど」 「わかったわ……オヤジさん、野菜炒めも追加で」 「はい」 と、奥の厨房へ消えるネコのオヤジさん。待ってる時間をどうしようかと考える暇もなく、すぐに料理を手に戻ってくる。 「や、やけに早いわね」 「リゼット様が『どうせこれ頼むでしょ?』という事で連絡を受けていたので準備しておりました」 「「……」」 それを聞いて呆然とする俺達。 いくらなんでもリゼットさん気を利かせすぎというか……どこまで俺らの行動読まれているんだ。 「と、とりあえず冷めない内に食べましょ」 「そうですね……変な薬でも入ってなきゃいいんですけど」 「ありえないわ、多分」 「きっと大丈夫ですよね、ははは……」 悪戯好きなリゼットさんの事だからあるかもしれない……そんな疑心暗鬼に囚われそうになりながら、出された各々の料理に対し手を合わせる。 「「いただきます」」 ご主人様の方は春巻きの様な物とデザートのつもりなのかチーズケーキのセット。そして俺のは野菜炒め。って、キノコ入ってる。嫌いだからのけておこう。 「で、お嬢様。お聞きしたい事が」 「ん、なにかしら?」 食べるのを中断し、フォークを置く動きさえも気品というか育ちのよさが出ていると思うのは奴隷としての欲目かな? 「そちらの男性は、リゼット様から恋人とお聞きしたのですが本当ですか?」 「ち――ぐぇ」 「――えぇ、そうよ」 否定しようとしたら見事なタイミングで足を踏まれて声が出せない。さらに今のご主人様の靴は編み上げブーツだから物凄く痛い。 「ほほぅ、世継ぎも安泰ですな」 「やだなぁ、もうっ」 手を顔に当て、頬を朱に染めつつ顔をオヤジさんから背ける仕草はまさに恋する乙女だが、俺はそのつもりはまだ無いっ! そもそも色恋ネタなんてのはかなり苦手で出来ればそういう話題は避けて通りたい……なんにしろ、面倒事は避けるに限る。 「あなた、キノコ残しちゃダメでしょ?」 「あ、あなた!?」 俺が現実逃避してる間にそこまで話が進んでいたらしい。 「ほらほら、あーん♪」 「あ、いや、それは勘弁してくれ……」 フォークに皿の端に避けたキノコを刺して俺の口元まで持ってくるご主人様。 フードの中から覗く目は悪戯心の塊で俺では止めれない。ここまでの症状はロレッタでもつれてこない限りは修正不可能……つまるところ"諦めろ"。 「ほら、カビとかその仲間のキノコを食べるなんて健康に悪いしさ。ご、ラヴィニアが食べればいいんじゃないかな?」 嗚呼万歳、無駄な抵抗。 ご主人様の演技に合わせてしまう俺も俺だが、ここでやらなかったらもっとひどい目に合いそうだ。 それはともかく、カビの仲間のキノコだけは勘弁して欲しい。 「んー、私の手からは食べれないってーの?」 「そんな酔っ払いみたいな……あ゙」 ご主人様の手元にコップの影、しかもその影はジョッキみたいな形をしている。 つまり……? 「酔っ払い!?」 「ほらほら~♪」 「お、落ち着いて、落ち着いて! ラヴィニアっ!?」 酔っ払いのしつこさは、とーさんからの経験から良く分かっているが、断固拒否。 「……ふーんだ、私の手から物は食べれないって事ね。へー」 「いや、そういう訳じゃなくてね?」 「浮気して私なんか捨てられるんだわ……仮にも姫を袖にするなんていい度胸よねー。どう思うオヤジさん?」 と、ジョッキをカブ飲みし、一人いじける主人様。 酔っ払いの演技だというのに心がシクシク痛む。……人が良すぎだ俺。 「袖に振りませんし、浮気もしません。キノコも食べますから、そんなに落ち込まないでください」 無論、俺がご主人様の恋人としての演技ではあるが俺自身の本心の一部分でもある。 「本当に?」 「本当ですよ」 俺はしっかりとご主人様の目を見据えて答えるが、返ってくる眼差しは妙に真剣。……ってこのホントに酔っ払いか!? 「それじゃ食べてね。あーん♪」 「……もうどうにでもなれ……あーん」 今更逃げるわけにもいかず、カビの仲間をご主人様の手から食べる。 この世の不条理をかみ締め、その味はとても無常だ。 「では、お幸せに」 そんな事を言いつつ、微笑ましい物を見るような顔をしたオヤジさんは別のカウンター席の方へ行ってしまう。 「んふ、もう一つ、ね?」 幸せそうなご主人様に何も言えず、大人しく食べる俺。 こういう態度されるといつも悩んでしまう。 "家族"と言ってくれた。ちょっと告白じみた事も言われた。けど……ご主人様にとって俺は一体なんなのか。 本当に……女の子の考える事は分からない。 食堂を出て見ると日はすっかり落ちて完全に夜。 こりゃいけないと思い、ホテルへ急ぐ俺達。 「ご主人様っ、ま、待って……」 「急がないと、予約の時間に間に合わないよっ!」 ご主人様の方が食べた量は多いはずなのに、俺より早く動けるのは基礎的な身体能力の差か。 それはともかく……うぅ、わき腹が痛い。 「あぁ、もうッ!」 予約が無効になって、野宿するよりマシ。 それだけを胸に、ひたすらご主人様と一緒に夜の街走る。 ご主人様のフードが飛ばされそうになったり、俺が道に落ちてる空瓶に躓いて転びそうになるのを助けてもらったりしながらだったけど 楽しかったのは否定しない。 その楽しい時間を名残惜しみながら、なんとか目的地であるホテルに到着。 「それにしても、すごい豪華ですね」 「いつもはもっと質素なんだけど……リゼットも何を考えているのかしら……?」 三階建ての豪華なホテル。ご主人様と特に動じていないが、俺は気後れして思わず後ずさってしまう。 「ほら、しゃんとする。不審そうな態度取ってると通報されちゃうでしょ?」 「いやでも……」 「変に気にかけるから負けなのよ。こういう所は多少見た目が変でも金払いさえ良ければ泊めてくれるのよ」 「そんなもんなのでしょうか……?」 妙にきっぱりと言い切るのが気にかかるが、ご主人様の言うとおりなのかもしれない。 それにしても、だ。 「ご主人様、まさか酔ってませんよね?」 いくら少ないとはいえお酒を飲んで走り回ったのだ、酔いが回っている可能性も否定できない。 「あはは、私があの程度で酔うはずがないじゃない」 確かに足元は全くふらついていないし、口調にも乱れたところはない。……が、不安だ。 最終確認をした俺達は、回転扉を抜け、そのままフロントの方へ向かう。 「あ、すみません。リゼット・メイフィールドの名前で予約してあるはずなんですけど」 「はい……ラヴィニア・ヒュッケルバイト様とお連れ様の二名様ですね?」 中のロビーもかなり細工に凝っていてこの格好が浮いていると思うのだが、接客している人の態度に変わりはない。 これがプロの仕事なのだろう。 「えぇ、そうよ。荷物とかは届いているかしら?」 「勿論です。では、部屋をボーイに案内――」 「それには及ばないわ。私たちで行けると思うから」 「分かりました……こちらがキーになります」 と、受付のネコさんが後ろに並んでいるキーの一つを探し取り出し、受け取るご主人様。 そこにある数字を何とか読み取ると"305"……多分3階なのだろう。 「ん、ありがと」 「いい夜を」 「貴方もね。……それじゃ、行きましょ」 「はい」 これまた立派な階段を登り、3階へ。 手摺にすら贅を凝らして彫っているのだから、このホテルの高級さがわかるというものだ。 「305、305……ここね」 「そのようですね」 ご主人様が所々に置かれている案内図を見ながら歩くので、少々時間は掛かったがなんとか部屋まで辿り着く。 ……隣のドアはかなり大きいのでおそらくスイートルームか何かで、この部屋はセミスイートって所だろうか? フロントで貰った鍵でドアを開けようとしているご主人様の背中を見ていると、何故か嫌な予感が湧き上がる。 「……いや、まさか……ありえないよな」 「ん、どうかしたの?」 「な、なんでもないです」 俺はそう言って、ご主人様と一緒に部屋へ入る。 当然の如く、中の物の装飾が細かくてお金の掛かり具合を表していて、それが妙に目にささる。 部屋数は3部屋程度でスイートルームではないようだが、それでもかなり宿泊代金がとられそうな部屋だ。 「りょー、ベットルームはこっちみたいよ。見てみる?」 「……それだ」 「は?」 「気をつけてください。罠があるかもしれません」 「え、え?」 ご主人様は目を白黒させて慌てているが、あのリゼットさんがすんなりと部屋を用意するだろうか? 俺の答えは『ありえない』 何でもかんでも茶化して面白がる性格から考えると、先回りしてベットルームに何か仕掛けていてもおかしくない。 事実、さっきの酒場でも俺たちの行動は読まれていたのだからこの程度の事は朝飯前なのだろう。 「ご主人様は俺の後から付いて来てください、リゼットさんの罠があるかもしれません」 「……ありうるわね。リゼットなぜかニンマリしてた気もするし」 ご主人様も同じような思考に至ったらしく、俺の指示に大人しく従ってくれる。 「それじゃ、開けますよ――」 開けた瞬間に、俺達は身を屈め飛来物に警戒。 傍から見ればおかしい光景だが、やってる側は極めて真剣だ。 「な、何もないみたいね」 おそるおそる中を見てみると、落ち着いた雰囲気の部屋にダブルサイズのベットが一つ。…… なんらおかしい所はない。 「やっぱり、私達の思い過ごしじゃ……」 「……流石にホテルには悪戯できなかったのかな?」 「まぁ高い部屋だから弁償代が洒落にならないし、ありえない話ではないわ」 そこでようやく溜息を吐いて力を抜く俺達。 そもそも、あの人なら部屋に入って来る時になんかしら仕掛けるのだから、わざわざベットルームにだけってのは考えすぎなのかもしれない。 妙な脱力感を感じつつ、届けられた自分の荷物を確認。とは言っても俺のは数日分の着替えだけで大した量ではない。 しかし、女の子であるご主人様は違うらしく、トランクケース一個分をぎっしり入っている…… あんまりジロジロみるもんじゃないね。 「なんか気が抜けちゃった……汗流してくるね」 「ん、いってらっしゃい」 そう何気なく言ったのだが、ご主人様は悪戯っぽい表情になって、 「覗いちゃダメだよ?」 「覗きませんからお好きなだけ存分にどうぞ」 なんでもないように装って冷静に切り返す俺……この手のからかいネタはねえさんで習得済みだ。 俺の反応がかなり淡白だったからか、ぶぅっと頬を膨らませるご主人様。こういう時にまともに相手すると疲れるだけだ。 「それじゃ……一緒に入ろうか?」 「――ゲホッ!ゲホッ! な、何を言ってるんですかっ、ご主人様ッ!」 「冗談よ、じょーだん♪」 そう機嫌よく言い、着替えを持ってバスルームに消えるご主人様。 流石に今の冗談は笑えない。 「さて、と」 ご主人様のシャワーを浴びている間に、ベットルームを粗探ししなくてはいけない。 リゼットさん相手に油断は騒動の種だ。 ベットの下を見てみたり、小物をひっくり返してみたりいろいろやるが何にも見つからない。 「んー、なにやってるの?」 ついつい無い物探しに熱を上げてしまい、声を掛けられるまでシャワーを浴び終わったご主 人様に気づかなかった。 「なにか仕掛けられてないかなーと……っ」 振り向くと、髪まで洗ったのかしっとりと長い髪が濡れ、丁寧に拭くご主人様。 濡れた髪の毛が室内灯の淡い明かりを反射して、妙な色気が出ていて見惚れてしまった。 「ん? なんかわたしの顔についてる?」 「あ、いえ何でもないです」 「それでさ、これ、どーかなこれ?」 ピンク色のパジャマを見せびらかすように両手を広げるご主人様。さらに大きめの袖を掴んで、モデルかなにかのようにくるっと一回転。 確かこんな色のパジャマは持ってなかった筈。ってことは、新品か? 「えーと、うん、よく似合ってますね」 ロレッタならともかく、スラリとしたご主人様にはアンバランスな印象を受ける。……あくまで比較的なので客観的にいえば女の子らしくて可愛いと思うが。 「お世辞でも嬉しいわ。……シャワー浴びるとさっぱりするけど、浴びる?」 「お言葉に甘えましてそうさせて頂きます」 「ふふ、気障な台詞は似合わないわよ」 「……そうですね、はぁ」 改めてそういう台詞が似合わない事を再確認し、予め準備しておいた着替えをもってバスルームへ。 ホテルにありがちな風呂とトイレのセットなどではなく、ちゃんと分かれている。 ご主人様のように長い髪をしている訳でもなく、なんにも気を使ってない俺は軽く汗を流すだけだ。 バスルームから出た俺は着替えるが、ヒトのオスという俺の体に合うパジャマなどあるわけも無い。 「ふう……ありゃ?」 そういう訳で急ごしらえの寝汗を吸い易い麻っぽい生地の寝間着に着替える。と、俺の足元に白い小瓶が落ちている。 拾ってみてみるとこの前買ったご主人様のシャンプーの香りがする。……あの髪を維持するにはこれで無いとダメらしい。 「ご主人様ー、シャンプー忘れてるよー」 「えっ?ご、ごめん、持ってきてくれないー?手が離せないのー」 ベットルームを覗いてみると、大きなダブルサイズのベットに腰掛けて自分の髪をブラッシング中。 これでは確かに手が離せまい。 「はい、忘れ物」 「ありがとね、りょー。そこに置いといて」 大事そうに髪を抱えている姿はまるで卵を抱く親鳥のようで、どれだけ大事か分かるというものだ。 「あ、そうだ。どうせなら私の髪を梳いて欲しいんだけど…………ダメかな?」 ご主人様にしては、弱気な発言。いつもこんななら断りやすいのだが……それ以前に断れるほどの甲斐性が俺にある訳がないが。 「いいですけど、俺経験ありませんよ?」 ご主人様と同じようにベットに腰掛け、さっきまで使っていた櫛を受け取る。 所々傷が付いているが、よく手入れがされていて大事にされているのが良く分かる。 「えーと、実際やってみて。ダメなとこ注意していくから」 「はい」 そう促され、綺麗な蜂蜜色と雪の様な白が混じった髪を手に取り、櫛を通す。 「うん上手上手。その調子で続けて頂戴。……本当は他の人にやってもらうのが一番なんだけどねー」 「へぇ」 前も手櫛をしたことあるが、湯上りだからかその時以上に櫛がよく通る。だがこんなに綺麗な髪にする努力は一朝一夕では無い筈だ。 そんな綺麗な髪に触れるなら役得かな? 「~♪」 ここからではご主人様の後姿しか見えないが、耳が垂れて相当リラックスしているのが見て取れる。 「それでさ、この髪に触って生きてる人は……りょー、今のところ貴方だけなの」 何か重大な事を言ったような気もするが、ご主人様の口調はひたすらのんびり。 俺は静かに、ただひたすら櫛を動かす。それをご主人様がどう捉えたのか分からないが言葉を重ねる。 「とーさんもかーさんも、お婆様もお爺様もみんな早死にしちゃうから………ロレッタやリゼットにも髪を触らせないの」 「……」 よく聞くとご主人様の口調はのんびりしているが、全く感情を感じさせないのんびりさだ。しかも耳の方も垂れたままで読み取れない。 正直どう答えていいのか分からない。否、答えてもいいのかさえも分からない。 「出来ればりょーには触らせたくなかった。けど、もう何回も触ってるし、どうしようもないかな……ってね。だからごめ――」 「とりあえず、そこまで」 「え、え?」 首を僅かに回したご主人様が俺の方を向くが、その表情は驚きの一色。 何を考えてそんな事を言っているのか分からないが、黙って聞いてるのは性に合わない。 「それを知ってても触ってると思いますよ、俺は」 「……怖くないの?」 「まさか、こんな綺麗な髪触ってみたいですよ」 ちっとばかし気障過ぎ……? 「ふふ、やっぱりそういう台詞似合わないよ」 「分かっていますからそれ以上突っ込まないでください。……なんにしても、ご主人様の髪にこの世じゃ俺しか触ってないって事ですよね」 「…………うん、そうね」 事実確認をしただけなのに妙な沈黙はなに?と訊きたいが、ご主人様はベットを軽く叩いたり、身じろぎしたりして何故か落ち着きがない。 この状況で訊いてもまともな答えは期待しても無駄だろう。 「あっ!!」 「うおっ!?」 妙な沈黙の中、何かに気づいたような大きな声を上げるご主人様。 静けさを心地よく享受していた俺は、心臓が飛び出るほどビックリ。思わず櫛を落とすところだった。 「……私はこのベットで寝るつもりなんだけど、りょーは何処で寝るの?」 「そりゃ、このベット……って、まさか……っ」 ここで泊まるのは俺とご主人様の二人。しかしベットは一つ。これでは一緒に……いや、大丈夫。 「俺がソファとか床で寝れば何の問題もありませんよ」 「ダメ」 打てば響くほど早い不許可の即答。 「りょーだって、ずっと慣れない馬車で寝ていたでしょ?私が……」 「女の子を下に寝かせるのも却下です」 そういう事はするなと、ねーさんにも厳命されていたしなぁ……まぁあちらの世界じゃまずありえない事態だが。 「だから、俺が床とかで寝れば済むじゃないですか」 「……私の髪に触った人はすぐに死んじゃうから、出来るだけ病気になるような行動は避けたいの」 さっきの食べ物の好き嫌いの事も全部俺の為なんだろうけど……そんなこと言われたら俺も強硬な事は言えない 「あぁ、もうっ!一緒に寝るくらいしか解決策がありませんよ?」 「それよっ!!」 何気なく冗談のつもりで言ったのだが、ご主人様は名案とばかりに手を叩いて喜ぶ。 「ちょうどいいことにベットも大きいし、二人で寝ても大丈夫よ」 うんうんと頷き、俺の手の中の長い髪が揺れる。 あー折角そろえたのに、またやり直しだよ……。 「何か間違いがあったらどうするんですか」 「間違い、ねぇ?」 可愛らしく首を傾げるご主人様。 当事者である俺が言うのはおかしい台詞だが、こうでもしないとご主人様は止まらない。 「りょーは、私に……間違い、しちゃう……?」 「っっ」 きわどい質問されて思わず櫛を止めそうになる……ここで動揺を見せたらダメだ。 「ほら、男と一緒に寝るなんてご主人様も嫌でしょうから――」 「……私はそんなこと訊いていないわ。りょーが言う"間違い"を貴方は私にするつもりか、と訊いてるのよ」 バッカスさんに啖呵を切ったのとご主人様達とのあの騒動から二週間ちょっと。 あの時からこんな事を言われるのではないかと恐れてた。 あーいう事は俺も男だから嫌ではないけれど、ここで負けたらご主人様達とやっとで作った"家族"という関係を壊してしまう。 さらに俺がご主人様かロレッタのどちらかを贔屓にすれば、彼女らの間に亀裂が入ってもおかしく無い。 バランス取り……という訳ではないけれど、俺の行動一つでこの居心地のいい場所が消えてしまうのは惜しすぎる。 「やりませんよ……理性が飛んだら知りませんけど」 「ふーん、そっか。理性飛ばさないとダメなのね」 「はぁ!? ななな何を言ってるんですか!?」 固まった俺の手の中から髪を引き抜いて、こちらを振り向くご主人様。 その眼差しはふざけているような要素は全くせず、ただひたすら真っ直ぐだ。 「私には、りょーの理性を飛ばせるほどの魅力……ないかな?」 首に手を回し、しなだれかかってくるご主人様。 互いの息遣いが分かるほど顔を接近させ、濡れた唇が艶かしい。 「別に、私は……いいよ」 ――多分俺は、鯉のように口をぱくぱくしていたと思う。 これだけ顔が近いのだから抜けるような肌の白さ、潤んだ大きな瞳、使ったシャンプーの香りの全てが、使う事の出来る感覚を全部揺らす。 体の内でも、痛いほどに心臓が脈うち、体の自由が全くといって利かない。 「あ……ぅ」 「なーに?」 意図せず漏れた声に、ご主人様は子供のように首を傾げ、もっと顔を近づけてくる。 その表情は可憐であり妖艶。いつもの見せる表情とは全く違って押し倒したくなる衝動に掻き立てられる。 「ねぇ、答えて?」 「お、俺は――」 こつんと互いの額と額を合わせ、少し動けばキスでも何でもし放題の距離。 ここまで接近されてフリーズした思考にまともな結果を望む方が酷である。 ……ダメ。これ以上踏み込まれたら―― 「は、はははっ! 最高っ! あぁもう……っ」 と、突然、破顔するご主人様。 俺の首に回した手を解き、ベットの中央に転がり笑いまくる。……これは、もしかして。 「だ、騙された?」 「そーいう事よ……ふふふ、もう可愛い過ぎよ、あはははっ」 怒る気力も起きず、ベットに背を預ける。 ちょっと首を曲げるとまだお腹を抱えて笑っているご主人様が見える。 あー憎たらしいー。 「はは……さて、緊張も解れた所で一緒に寝ましょ?」 ひとしきり笑い、落ち着いてきたのか、ご主人様は目端に浮いた涙を拭いながらそんな事を言ってくる。 「ん……さっきも言いましたけど理性飛んだらしりませんよ」 「りょーはそんな事しないって信頼してるもの。それにさっきだってあそこまで迫ったのに固まってばっかりだしねー」 「……はぁ」 全く……ヘタレか何かだな俺。 信頼されてるならいいのだが、いっつもこういう風にしていたら勘違いされてもおかしくないぞご主人様。 「もう寝る」 「私もー♪」 何もかも面倒になって靴を乱暴に脱ぎ捨ててさっさと毛布の中に潜り込む。勿論ベットの端っこだ。 「おやすみ、ご主人様」 「……りょー、こっち向く」 「? なんですか――」 くるりとご主人様の方――反対側の端――を向くと胸の辺りを掴まれて、強引に引っ張られる。 「枕、持ってかれた」 「……あぁなるほど。ってご主人様、枕が無いと眠れない人ですか?」 「うん」 枕がないからか、不安げな様子のご主人様。 ベットのサイズは大きいが枕は一つ。最初に潜った俺が枕を持っているが俺は無くても眠れるから渡してもいいかな? それにしても意外と繊細……は失礼かな。 「ほら、この枕で……」 「いや……本当に恥ずかしいんだけど枕変わると寝付きにくいの……」 「そりゃまた、難儀な」 とは言っても、ご主人様の枕を持ってくる事は不可能。うーん、我慢してもらうしかない……ってのはちょっと可哀相かな。 「と、いう訳で腕を伸ばしてみてくれないかな?」 「いいですよ」 何に使うか分からないが、さっさと寝てもらえるならこれに勝るものは無い。 と、結論付けて要望どおり腕をご主人様の方に伸ばす。 「あはっ♪」 「ちょ、待って! 反則だそれっ!」 ご主人様の企みに気付いたときには既に遅し。勢いよく頭を俺の上腕の辺りに置いてちょうど腕枕の格好だ。 これを引き剥がそうと動くがこれも予想済みだったのか、まだ胸の辺りを掴んでいて動けない。 「はぁぁ……もう好きにしてください。それはともかくさっき言った事全部嘘ですか?」 「勿論、本当よ。ベットに寝ようとするとさっき言ったみたいになるの。……野宿はできるんだけどねー」 要は野宿などでは眠りが浅く、ベットで寝ると眠りが深くなるタチらしい。……もしかして部屋で寝惚けるのもこの所為かな? そんな事を考えてる隙にご主人様は、もはや密着と言ってもいいほど擦り寄ってくる。 「あんまりくっつかれると理性切れて襲いますよ」 今更こんな脅しが効くとは思えないが、ここまでくっつかれると否が応でも妙な気分になってくる。 「ふふ、りょーにだったら……襲われても、いいよ?」 「~~~~っ」 恥ずかしげに頬を染め、言いたい事を言うとすっぽりと俺の胸の辺りに額を当てるご主人様。 演技だと分かっていても、何度同じ事をされていても、こういう態度は本当に慣れない。 「……んん」 気がつくと、俺の腕枕で眠っているご主人様。 慣れているといえ馬車での長距離移動に加えてお酒まで飲んだのだ、疲れていない訳が無い。 その寝顔は、無邪気な子供のように無垢で、例え人をからかって遊ぶ人でも微笑ましい気持ちになる。 「おやすみなさい、ご主人様。いい夢を」 今日はキノコを食べさせられたり、迫られたりしたけれど、いつも以上に楽しかった。 でも俺には時間が無い。 バッカスさんに啖呵は切ったが、最近じゃ説得する自信がだんだん無くなってくるのを感じる。 だからって、有効な手段があるかというとそうでもない。 つまりは、手詰まりだ。 「……とーさん、かーさん……」 一瞬起きてるかと思ったが、いつも通りのしっかりと喋るご主人様の寝言だ。 ……その一言にどれだけの重さがあるかは知らない。けど、寂しくならないようには俺でも出来るはずだ。 そう決意し瞼を閉じると、疲れが体中から染み出てくるように感じた。 (俺も……人の事いえないね……) シャンプーの香りに包まれながら無意識の内に俺は、腕の中のこの世界で大事な女の子を抱きすくめて眠っていた……。 「起きてるー二人ともー?」 くぐもって聞こえる元気そうな声……リ、リゼットさんかな? 体を伸ばすが、いまいち体が重い。 「お、起きてますー」 「ん、入るわよー」 ドアが幾つか開いた音がしたかと思うと、すぐに、ベットルームのドアノブが回る。 いくらなんでも寝てるわけにはいかないかな……よいしょっと、何でこんなに体が重いんだ? 「おは……よ?」 「おはよう、ございます」 眠い目を擦る俺を呆けたような顔で見つめるリゼットさん。が、いつもとなぜか様子が違う。 「……なんかおかしい所あるんですか?」 「そ、それ、どうしたの?」 「あ」 指差された先には、俺の首に手を回し抱きついているご主人様。しかも、パジャマのボタンが外れて肩口まで見えている――って、 いつの間に何してんだこの人!? 「……ははは、ご主人様にせがまれて、仕方なく一緒に寝ただけでなんにもありませんよ?」 とりあえず、冷静さを装って言い訳。一応事実しか言ってない。 と、ご主人様がより、強く抱きしめてくる 「……りょー、もっと……おねがい……」 場が凍る、とはこの事なのだろう。 眠っているご主人様以外の俺とリゼットさんはただただ呆然。 しかもご主人様らしくない寝惚けた寝言が説得力がありすぎた。 「あらあらまぁまぁ! ごゆっくりー♪」 「か、勘違いしたまま、帰らないでリゼットさんッ!」 当然の如く俺の言葉が届くはずもなく、リゼットさんはどこかに行ってしまう。 この空しさ、何処にぶつけるべきか……? 「おかわりー、へへへ」 やっぱ、この人か。 「起きろッ!この騒動乱発ご主人様ッ!! 起きろ~~~ッ!!!」 「ひ、ひゃ!?!!!? 何、なんなのー!? 」 パジャマをちゃんと着せて後に、彼女の耳元に大声の目覚ましを打ち込む俺。 「私が何かしたっ?!??」 「問答無用」 ご主人様の目が醒めたので今度は耳を思いっきり引っ張る。 「痛いっ! 伸びるからやめて~」 「どうせだからウサギくらい伸びて寝ながら場の空気を読んでください」 「無理無理無理、そんなに伸びないし、寝ながら場の空気なんかよめな……痛痛、痛いっ!」 朝からゴタゴタの一日がようやく始まる。残り時間あと10日。 遺恨を残すつもりは無い。 「若いって良いわぁ」 ドアの隙間からリゼットさんの声が聞こえるが無視してさらに力を込める。 「うわーんっ、なんなのよ、もうー!!」 ……とまぁ、そんなこんなで朝が騒がしかったが……嫌いじゃない。 § § 2 § § いつまでも耳を引っ張ってるわけにも行かないので、適当な所で切り上げてリゼットさんの頼んだ朝食を全員で食べ始めるが、ご主人様の方は今朝俺が引っ張った耳をうーうー唸りなが らひたすら擦っている。 「ほんと、あんた達は見てて飽きないねー」 とは、朝食のサンドイッチに手を付けずに紅茶をすするリゼットさんの言。 ……その微笑ましい物を見るような目は勘弁してください。 「うぅ、まだ耳がひりひりする」 「自業自得でです、ご主人様。大体、俺が誤解を解くまでどれだけ苦労したと思ってるんですか?」 ご主人様がジト目で睨んでくるが、さらりと受け流す。 どれ位苦労したかというと、ルームサービスが来るまでの間に使える語彙が全部なくなる位必死だった。 と、りょー、わかってないなー と言いながら小さめのサンドイッチを一口。 「あそこまで必死なのに真偽も分からないほどリゼットはバカではないわ……遊ばれただけよ、あむ」 「……本当ですか?」 油を差し忘れた機械のような動きで、優雅に――何も食べていないが――食後の紅茶を楽しんでいる人に首だけ回すと、にっこりと無邪気そうな笑みで返される。 どうやら、俺の頑張りは無駄らしい。 「ほらね? こんなもんよ」 「はぁ……」 やっぱり、この人は苦手だ。 ため息をつきながらそれを実感すると、 「騙される方が悪いのよ。人間関係でも冗談でもね」 リゼットさんが苦笑しながらウインク一つ。 確かにそうなんでしょうけど、憎めない騙し方だから余計にタチが悪い。 「……あれ、サンドイッチ食べないんですか?」 話題をそらすようにリゼットさんの皿を見るとに、全く手をつけていないサンドイッチが三つ並んでいる。 「うん、あっちで食べてきたからね。リョウくん、食べる?」 「頂きます」 正直、三つだけじゃ足りなかったところだ。 そういう訳でリゼットさんの皿へ手を掛けると、ご主人様が一瞬、物欲しげな目をしているのを 俺は見逃さなかった……そういや、 細めの見た目に反して結構量を食べるんだっけ? 「ん、俺は1つでいいですから。ご主人様に2つあげますよ」 「あ、いや、私いいよっ!」 「……素直に貰っときなさい。アンタよく食べるんだから」 「うぅ」 リゼットさんから追撃されたが、頑固にも我慢するご主人様。 俺には分からないが、彼女なりの考えがあるのだろう。 「相変わらず頭固いわねぇ……リョウくんから食べさせてもらえば?」 「あは、それよっ!」 ……また、またですか、この展開。 しかも今回は提案したリゼットさんは意味ありげに笑っている。 「ご主人様、リゼットさんのいる前でそういう事すると立場上マズイと思いますよ」 「今更リゼットに何知られようと怖いものは無いわ……ふふふ」 「……さいですか」 無駄とは思ったがここまで無駄ですか。 「リョウくん、耳引っ張ったお詫びだと思えば楽よ、多分」 「そうそう♪」 2:1の状況をひっくり返す切り札などありはしない俺は仕方なく、皿から一つだけ手に取る。 「……あーん」 「あーん♪」 このままご主人様の口の中に勢い任せに叩き込みたい衝動を抑えつつ、サンドイッチを食べさせる。 リゼットさんからの温い視線がとても痛い。 「もう一口どうぞ」 「うんっ」 いくら小さめとはいえ、二口で一つ食べきるのはどうかと思うがこれ以上面倒事になりたく無くない。 取りあえず、コレで終わり。……まるで恋人か何かのような行動は嫌いではないけどかなり恥ずかしい。 「はい、おしまい……はぁ」 「ごちそーさまでしたー」 「……ほんと、"ご馳走様"ね……」 全部あげるとか言わなくて良かった、本当に良かった。 そうかみ締めながら食べるサンドイッチは本当に格別だ。 「さて、リゼット。ただ私達をネタに遊びに来たわけじゃないんでしょ?」 「……そう、ね。ほんと、機嫌のいい時に仕事はしたくないものね」 俺が食べ終わると真剣な表情になるご主人様とリゼットさん。 「席外しましょうか?」 こういう場にヒトが居ても仕方ないだろう。 「いえ、リョウ君にも働いてもらうからその必要はないわ」 「は、はぁ……」 役に立つのは嬉しいが、何故か嫌な予感がする。 「『軍』『外交』からの情報筋から『ヤツ』が今日中に"迷宮"に襲撃を掛けられる公算が高くなったわ」 「――っ」 『ヤツ』という単語が聞こえた瞬間、ご主人様の顔色が青を通り越し白くなり、表情という表情が 消え去って、雰囲気が一気に剣呑な物へと豹変する。 その反応を分かっているはずのリゼットさんは、変わらぬ調子で続ける。 「ですが、迎撃の為の準備完了まであと3時間は掛かります。その為、アタシ、リョウくん、ロジェ将軍を餌とし時間稼ぎをします」 「……すみません、要人であるリゼットさんやロジェ将軍ならともかく、俺を囮にする必要があるんですか?」 突然俺の名前が出てきて、驚きつつも2人に疑問をぶつける。 「ヒトは、高価で貴重な"落ち物"。叩き売ってもお釣りがくるわ」 答えてくれたのは滅多に無いご主人様の平坦な声。 怒ってるときか、悲しいときか、はたまた、どの感情を出していいか分からないときのどれかだ。 そして、その声をリゼットさんへ向ける。 「と言う事は、下にはロジェ将軍とフランツ外相がいるのね」 「えぇ、フランツさんは3日前に、ロジェの方は昨日の内に入ったわ。それでラヴィニア、あなたには地下の護衛に回って欲しいの」 「任せて、それで……」 実務的に粛々と進む打ち合わせに入れず、ただ見て、聞くだけの俺。 理解できない単語や隠語も飛び交う中に入れるほど無謀なつもりはない。。 「こんなところね。あとはフランツさんに訊いて」 「えぇ、わかったわ……それじゃりょー、チェックアウトしましょうか?」 「は、はい」 呆然としてる間に終わる打ち合わせ。……コレが彼女らの普通なのだろう。 すたすたと、冷静に歩くご主人様達を追いかけながら俺はそう思った。 ホテル横の細く狭い路地。 日の光もまばらなそこに、ロジェ将軍が壁にもたれ掛かって俺達を待っていた。 「お待ちしていました」 「……状況に変わりはないかしら」 「えぇ、尾行の気配もありませんから、今すぐ動くべきかと」 その口調は、落ち着いてはいるが何処か急かしている感じがする やっぱり物騒な事になっているらしい。 「よし、私一人で下へ行くけど、2人の護衛を頼むわね」 「お任せを。お嬢様」 「それと……リゼットいいかしら?」 「んーなに?」 「絶対、ぜぇったいっ!りょーに手を出さないようにね?」 ……言う事に欠いて何言いますかこの人。 さっき以上にからかわれると身構えるが、意外にもリゼットさんは何も言わずにご主人様に近づき、ひそひそと耳打ち。 「~~~っ! あ、ああああとは頼むわよっ!」 「ご、ご主人様っ!?」 何を言ったか不明だがその効果は絶大のようで、一瞬で顔色が真っ赤に染まり、呼び止める暇も無く奥へ消えてしまう。 「リゼットさん、何言ったんですか?!」 「んぅ……まぁ、ちょっとした謎掛けよ」 少しおどけた感じで答えてくれるが、どうにも引っかかる。 「さて、リゼっち。時間稼ぎとは言ったが何処行くんだ?」 「りぜっち言うな。それはともかく通りを回りましょ。人ごみなら相手は仕掛けれないし、アンタが後ろに居れば嫌でも相手が気付くわ」 「なるほど……だが、りょう君が分かってないみたいだが」 「ははは……」 笑ってごまかそうとするが、正直言ってこの2人の会話の内容は部分的にしか分からない。 「歩きながらでも説明するわ。あ、フードは脱いでいいわよ、見た目だけならアタシのヒト奴隷って見えるだろうし」 「はい……っうぅ」 ホテル前の通りに出て、リゼットさんの言うとおりフードを脱ぐと太陽の日差しが目に突き刺さって痛い。 そろそろ、夏なのかもしれない。 「さて、何から説明しましょうか」 背は俺と同じくらいのリゼットさんはネコの女性の中では高いらしく、少しだけ周りよりも高く、日を反射する金髪が良く目立つ。 ……まずはこの疑問からかな? 「何で俺は腕を組まれてるんですか?」 そんな人が俺と腕を組んでいるのはかなり目立つ上に気恥ずかしい。 ロレッタや、ネリー達とは外に連れ出されるたび、何度かあるがこればっかりは何度やっても慣れない。 「にゃはは、ラヴィニアがいる前でこんな事出来る訳がないでしょー」 「はぁ……」 もういつもの恒例行事だと諦めるしかないらしい……ご主人様と手を繋ぐのも違った意味で緊張するけど。 「……」 落ち着いて、周りを見回すと帆船の帆の様な物が背の低い建物を越えて見える。歩いている人も見てみると何処か水兵さんの様な服装のイヌやネコ、トラさえもいる。 「ここって、川か海でも近くにあるんですか?」 「えぇ、場所的にはネコの国内だけど、キツネ、トラ、イヌの三国に近い場所よ。しかもトラの方の山から大きな川が流れてて、船なんかも良く入ってくるの」 「船と一緒に、不届き者も多いがな」 リゼットさんの解説の隙を縫って、ロジェ将軍の補足が後ろから飛んでくる。 「そのお陰で"迷宮"の情報が良く売れるのよ……それはともかく、ここにアタシの商会の本部が置いてあるの。ちなみに規模はキャラバン9つに……」 俺には、ほとんど分からないが商会を話すときの表情といったら生き生きしてて、本当に自慢なのだろう。 こういう自信は本当に羨ましい。 「リゼっち落ち着け、これ以上彼に情報与えてもパンクするだけだぞ」 「ははは……ごめんなさい」 俺の反応に呆れたようにため息をついたリゼットさんだが、その後はちゃんと丁寧に店を紹介してくれる。 あっちの町には無い店、こちらでは大きい店、小さい店。はたまた、予想もつかない店。 見るもの全てが物珍しくて、時間を忘れて俺はキョロキョロを周りを見て回る。と…… 「社長ー! リゼット社長ー!」 「へ?」 日がもっと強くなり、それに比例するように騒々しくなった通りのどこかからそんな声が聞こえる。 リゼットさんやロジェ将軍は声のする方向が一発で分かったらしいが、ヒトである俺にはおぼろ気にしかわからない。 「なんか天下の往来で呼ばれてるぞ、リゼっち」 「だからリゼっち言うな。……ったく、リョウ君行くわよ」 腕を組まれたままなのに強引に道の端から端へと引っ張られて、行き交う流れに揉みくちゃにされる俺……ここで離されると、文字通り迷子になりそうなくらい勢いが強い。 「あ、社長。お世話になってまーすっ」 そうして連れて来られた先には、とてつもなくテンションの高そうな声の女のネコさんに、屋台の様な造りの露天だった。 並べられている品物を見ると銀か何かで出来た綺麗な装飾品。その出来は興味の無い俺の 目からでも良く出来ていると思わせるほどだ。 「人が気分よく居るときに呼び止めるなんていい度胸ね。原材料の仕入れ減らすわよ」 「ちょ、待ってくださいっ!?ほら、安くしますから!」 「んふ、どのくらい?」 ニヤリと笑って凄く悪役か何かに見える。 やっぱり、こういう場ではリゼットさんは強いらしい。 「2割で」 「6割よ」 「損しか出ませんよ!?」 「ち、4割で」 「もうちょっと勘弁を……」 「何、もうちょっと削っていいの? 仕方ないわね8割引きよ」 「!?!?!」 あまりの暴挙に気が遠くなったのか、テンションの高かったネコの女性は額に手をあててふら付いている。 「ふふ、冗談よ。2割でいいわ。その代わり今手持ちが無いから原材料でツケにしてね」 「……た、助かります……で、これなんてどうでしょ?」 すっかり意気消沈した風にぐったりとしながら、品物を勧めて来る。 「へぇ、やっぱりアンタのは上手ね。いくつか買い取って売ったけど評判いいわよ」 「えへへ、ありがとうございます」 そんな会話を聞きながら、勧められた内の一品――細やかな意匠が凝らされた髪飾りに目が留まる。 使われている物は銀のように鈍く光っているがデザインのお陰か、地味目に見える。それでいて存在感を失わないバランスがある。 ……こういうのは髪の長いご主人様に良く似合いそうな気がする。 「ん、社長の召使いさんですか?」 「いいえ、知り合いからの借り物よ……で気に入った物はあったかしら?」 「……あ、はい。これなんですけど」 俺はその髪飾りを手に取り、リゼットさんへ見せると女主人は目を大きく見開いて微動だにしなくなった。 心配になって小声で呼ぶが、その状態のまま硬直して不気味なオブジェか何かっぽくなっている。 「……やっと売れる……やっと売れる……」 いい加減声を掛けた方がいいかと始めた頃に、唐突にぶつぶつと不気味に呟きだす……俺、もしかしてかなりヤバイ物を手に取ったのか……? 「一生懸命丹精込めたのに売れ残った3年前の初仕事っ!!今、ココで売れるなんて……ワタシっ最高の極みですッ!!」 「大方、派手に勧めすぎて客に引かれたんでしょ?……ね、リョウ君?」 「ははは……」 引くというか……怯えたというか……そんな微妙な感触だ。 そんな俺の反応を置き去りにし、ネコの店主さんはさらにヒートアップ。 「失礼ですよ社長。客に懇切丁寧にねっとりオススメし続けて2年。諦めてたんですが、今、ココで売れるなんてッ!」 「さよか、それで幾ら?」 いくらリゼットさんとはいえ、まともに付き合う気がないのかさらりと流される。 「えぇと割引して、5セパタです」 「つまり5000センタ。高い――」 「――か、買いますから、そんな顔しないでください、ね?」 隣の銭の悪魔に睨まれつつも、今にも涙が決壊しそうな目の前の女ネコさんをなんとか宥める。 「うぅ、ありがとうございます……え、えーとヒト君、ついでですからコレも持ってってください」 「あ、どうも」 つい流れで受け取ってしまったのは小さな鈴が付いたブレスレット。 軽く鳴らしてみると、土産屋にあるような安物の音ではなく、静かに綺麗に鳴って思わずしんみりとしてしまう。 本体のブレスレットの方も、先ほどの髪飾りにも負けず劣らず細かい造りで綺麗だ。 「……コレは新作?」 「はい、ただ、鈴を付けたので音がうるさくないかなーと思うのと、上手な鈴ってのが案外難しくて作るのが大変なんです。 しかもキツネの方からなかなかサンプル来ませんでしたから苦労しましたよ」 「でも、綺麗ね。アタシは好きよ」 えへへー、と笑っているが、照れとどこか自信の欠片がある感じもする笑い方だ。 苦労はともかくとして、出来自体にはかなりの自信があって勧めたのだろうし、やっぱり自分の仕事と作品に誇りをもっているのだろう。 「それじゃ、ありがたく貰っていきますね」 「……はい、どうぞ。またよろしくー!」 商品を包んだ袋を受け取ると、元気よくお辞儀をしたのを見ながら俺達は通りの流れに戻る。 ……髪飾りの方はご主人様、鈴付きブレスレットはロレッタかな? 「そういえば、本気で5割とか値引かせるつもりだったんですか?」 あそこまで無茶な値引きをさせようものなら、反感を食らってもおかしくないと思う。 そんな心配から出た疑問だが、リゼットさんは事も無げに答える。 「大丈夫よ。ここ最近銀の価値が下がってるけど、もうすぐ近くの町で祭りがあるらしいの」 つまり、と続け、 「あの子は同じ量を買ってくれてるからその時で2割分は相殺。で、祭りで装飾品類はよく売れる……こういうカラクリよ」 「あぁ、なるほど」 流石商人、というべきだろう。 こういう取引の説明をされれば分かるが、それを実践するのは少なくとも俺には出来ない。 「あぁそういや、ロジェはどうしたのかしら?」 「んぅ……いるぞ、リゼっち」 リゼットさんがふと思い出したように言うと、声と共にすぅっと気配が後ろで浮かび上がる。 確認の為、振り返ってみるとなにやら食べ物の入った袋ををどっさりと片手に持っている。 「まぁ、昨日から何も喰ってないからな」 言葉だけなら言い訳がましいのだが、この人が言うととても真っ当に聞こえるから不思議だ。 「あのーロジェ将軍……?」 「ん、ロジェでいいぞ。堅苦しいのはお嬢様達とバッカス老の前だけで十分だしな」 「えぇとロジェさん、確か3日前はあっちに居ましたよね?」 「んー」 たこ焼きの様なものをパクパクと口の中に放り込みながら、なにやら考え込む仕草。 確か、ここまで来るには馬車で3日掛かったのだから、ロジェさんも同じくらい掛かるはず。 でも俺が最後に見たときはなにやら演習をしていたように見えたのだが……? 「リゼっち、言っていいか?」 「別に構わないわよ……あと喋りながら物食べない。リゼっちとも言うな」 「……コレのお陰だ」 最後の一個を飲み込んで空いた右手を長い袖から日の下に出すと、鈍く光る金属塊が出てくる。 よくよく見ると手全体を包むようなつくりの手甲だ。しかも表面が黄色みかかってどこか不思議な印象を醸し出している。 「【魔法付与手甲】"ケラヴィノス"。50年前の遺産だが詳しくは知らん」 「はぁ……」 正直、魔法関連のことは良く分からない。 使えるのは身近に居ないし、何より必要が無かった事もある。 「……ちなみに支払いで年2000セパタ。50年前から支払い続けて後100年いるわ」 「100年!?」 リゼットさんの追加説明で、あまり良くない脳みそが動き始める。 ……えーと2000セパタが50年で100000セパタ。 あと100年だから200000セパタ。 合計300000セパタ。センタに直せば300000000……もう額の計算すら諦めたくなる値に頭痛がしてくる。 「ちなみにお嬢様はコイツの事は知らん。知ったら倒れかねんからな」 「……アタシにはいいの、それ?」 リゼットさんにしては珍しく、何処か諦めの入った声音がロジェさんを責める。が、 「まぁリゼっちだしな」 さらりと受け流される。 「それはともかくこの篭手の説明をすると、左手に《魔力簒奪》右手に《雷撃表現》そして両方を合わせると《万能結界》の効果がある」 「ごめんなさい、さっぱりです」 なんとなく凄い便利な物という印象しか分からない。全く、自分の頭の悪さに辟易しそうだ 「大丈夫、オレも良く分からん」 「……バカやってないで2人とも行くわよ。……なんか後ろから嫌な視線が来るのは気のせいかしら?」 「いんや、大当たり。尾行されてるがヘタクソだな」 ほれほれと、ロジェさんに背中を押されて、俺は人の濁流の中を何とか歩く。 リゼットさんの言う通り、後ろから痺れる様な視線が首の辺りに当たって痛い。 「……」 尾行されているという緊張感からか、殆ど喋らず雑踏の中を緩やかに進む。 細い糸が張り詰めるような感じは、朝のご主人様の雰囲気と非常に似ている。そういえば…… 「『ヤツ』って誰なんですか?」 「ん……」 聞かれたくない事を聞かれた人間特有の裏声を出したリゼットさんの顔が悲痛に歪む。 「言いたくないならいいです。ごめんなさいっ」 ……ご主人様の雰囲気を張り詰めさせ、いつも余裕のある態度のリゼットさんをここまで豹変させるほどの事なのだ。俺が入れる問題じゃない。 「貴方にも囮をやってもらっているのだから、知る権利くらいあるわね」 そう思っていたのだが、意を決した様子でそう言うリゼットさん。 ここで『無理しなくても』などというのは相手にとって失礼だし、なによりご主人様達の負担が軽くなるのなら俺は幾らでも聞くつもりだ。 「『ヤツ』は――…」 「先に謝っておく。――リゼっち、ごめんな」 「え? ……!??!?!?!?!」 ロジェさんが何故か謝った瞬間、リゼットさんの口の中にホットケーキの切れ端らしき様な物が放り込んだ……と、いうより叩き込んだ。 多分出来たてで凄く熱かったのか、口元を押さえて路上で呻いて、長い尻尾の毛が総立ちでパンパンに固まってる。 ……あぁぁ、の、飲み物が必要かな? 「~~っ!? ~、~!! ~~っ!」 「『ロジェ!?猫舌のアタシに何食わせるのよ!!軍の予算減らすわよっ!』か……その前にお前に聞くぞ」 悪ふざけの様にアクセントまでばっちりなリゼットさんの真似を披露するが、その声音はどこまでも真剣だ。 「これ、どうぞ」 「~~、あ、ありがと、リョゥくん。……で、なぁに?」 近くの露天から冷たいジュースを買ってリゼットさんに渡すと、貪る様に喉を鳴らして飲んでいる。 そのお陰か何とか喋れるようになったらしいが、まだ呂律が回らないらしい。 「……お前、いつから飯食ってない?」 「――っっ」 叱責と心配の綯い交ぜになった言葉にリゼットさんは押し黙る。 「黙ってれば分からないと思ったか? ほれ」 「あ……」 ロジェさんは手甲を脱いだ手でリゼットさんの頬を優しくとなぞる。 ……こうして見ると確かに、やつれている様に見える。 「お前はもうちょっと頬のラインがふっくらしてるはずだろうが。似たような事するお嬢様ならともかく、俺の目を騙せると思ったか?……ほれ、言ってみろ」 「……3日前から食べてない」 「はぁ」 フードの上から――恐らく額に――手を当て、大きなため息を吐くロジェさん。 なんというか、3日間も飲み物だけで暮らせるのが凄い、という感想しか俺はだせない。 「取りあえず、袋の中身でも食ってろ。サンドイッチとかだからリゼっちの舌でもいけるはずだ。……後の説明は俺がやる」 「ごめん」 「謝罪はいい。大人しく食べてろ」 「……うん、ありがと」 「礼もいらん……と、すまんな」 リゼットさんに袋を渡し、俺の隣に並ぶロジェさん。 俺と同じくらいの背丈だが、歳の功か少しだけ大きく見える。 「話を戻す前に一つだけ。……これから言う事は多分、お嬢様にも秘密だから喋るなよ?」 「あ、はい」 「よろしい」 ちょっとおどけた感じで笑うと、ぐっ、と親しみやすさが上がる。 こういう爽やかさは、俺には真似出来ない。 「それでさっきの質問に戻るが、訊きたいのは『ヤツ』の正体だな?」 「はい……ご主人様に訊こうかなとも思ったんですが、『ヤツ』って聞いた途端に雰囲気が変わるので、ちょっと訊けないなぁ……と思った訳で」 あの変わり様は、傍目から見てもおかしかった。 それに追い討ちは流石に出来ない。 「"ヤツ"の正体は……リゼット・メイフィールドの叔父、アーネスト・メイフィールドだ」 少し重めのロジェさんの声が、とても強く耳の中にこびり付き、思わずリゼットさんの方を向いてしまう。 「あははは……」 笑っているけども、どこか泣いているように見えるのは気の所為か……俺には判断できない。 「さて、りょう君……これ以上先を聞く覚悟はあるかね?」 軽い口調のロジェさんだが、言葉の意味は極めて重い。 問われているのは"覚悟"。"資格"や"意味"じゃないから……いいよね? 「あります、聞かせてください」 そういうと、悪魔か何かのような嫌な笑い方をして何か間違った選択をしたような気にさせるが……間違えたつもりは、無いっ! だから……頑張らないと……! "迷宮"と名はついているが、分かりやすくする為にいくつかの大通路に細かい通路が連なっている。 当然ながら、大通路の先には指示を飛ばす"司令室"という物がある。 「女王陛下、C地区の準備を完了しました」 「ん、わかったわ。……引き続き、警戒よろしく」 「はっ」 そう言って『軍』所属の人は、司令室から元の配置へ戻っていく。 その後姿を視界の端に見ながら、私は自分の装備を再確認。 防刃加工された厚手の白いブラウスに、なめし革の朱色のロングスカート。……実はこのスカート、スリットが結構深くて太ももの半分くらいまである。 下着が見えないようにある程度留めてはいるけども、着慣れないから少し恥ずかしい。 「えーと……」 腰周りを包むように付けている連結ミニポケットに触って異常が無いか確かめる。 見た目的にもおかしい所はないし、中身の方も、新品に入れ替え済みで問題なし。ロングナイフホルダーもしっかり固定が 出来てるみたいだし、"切り札"もちゃんとある。 「ん……」 最後の仕上げに髪を纏め、形見の髪留めでしっかりと止める。 とーさんやかーさんは写真が嫌いだったから、形見の品はこの髪留めだけ。もし壊したりしたら大変だけど私にとってはお守りも同然の品だ。 「ラヴィニア様、大丈夫ですか?」 「えぇ、勿論。準備が思ったより早く終わりました」 通路の奥からしっかりとした足取りでフランツさんが歩いてくる。 確か200歳位だと記憶しているが、大体じいや(バッカス老)が生まれたあたりに来た事くらいしか分からない。 ……じいやと同じく過去がかなり謎な人だ。 「隣、よろしいですかな」 「どうぞ」 一息ついて私の隣に座る姿はすっかり好々爺と言った感じだが、通路を巡ってここまで来たのだからその体力は侮れない ……まぁ味方だから別に殺気立つ必要ないけど。 それにしても『リョウ君の事、好き?』だなんて直球で聞いてくるもんだから思わず逃げ出してしまった。 ……い、嫌いって訳じゃないんだけど、真っ直ぐに来られるとやっぱり困るというか、"りょー"の意見も聞いてからこういう事は決めるべきだと思うの。 けど断られたらこの気持ちは宙ぶらりんで欲求不満というかいやいや、"りょー"ならさくっと流さ れてくれるんじゃないかとちょっとは期待してみてもいいんじゃないかと思ってみたり ……そうじゃなくてっ!私はあくまで"りょー"を家族として見ている訳で……昨日の夜のは3割方本気だとはいえ、7割はそっちの気持ちだから問題なし!!――なわけないでしょ、私! 「……大丈夫ですか、百面相でしたが?」 「だ、大丈夫です。ちょっと考え事してたので、あははは……」 いきなり声をかけられてどうもしどろもどろの私。 その慌てっぷりもフランツさんのリラックスした姿を見てるとなんとか落ち着いてくる。 これが人徳の差なのかな? 「それで……悩んでいたのはあのヒトの事ですかな?」 「い、いえ違いますよ!ほ、ほら、これからの対策とかっ!?」 せっかく落ち着いたのにこんなバレバレな態度をとってしまうのは"りょー"の所為に違いない。 「ラヴィニア様」 「え、あ、はい」 宥めるような声音に壊れかかりの頭が冷えてくる……とんでもない失態のような気がする。 そんな事を攻めもせずにニコニコと歯を出して笑うフランツさん。 「我々、人がヒトに恋するなどという話は一部の小説にも存在します。さらに現実でも僅かながらにもあります……だからその事実自体はおかしな事ではありません」 「……」 唐突に語られ始めた言葉に私は思わず真剣に聞き入ってしまう。 いつも読むのは資料とか辞書だものだから小説なんていうものは読んだことは無いからそういう物があるとは知らなかった。 「無論、ヒトは脆く、寿命こそネズミなど一部の種族と同程度ではありますがネコ、イヌ、キツネなどとは倍以上離れています……そして、高価に取引され、酷使の末に大抵は寿命の半分も生きられません」 「それは……知ってる。女の子の生存率が低いのは荒っぽく扱われる所為とも」 私の答えにフランツさんは貫禄たっぷりにうなづき、一瞬遠い目をする。 なにかあったのかもしれないが、悔しいけど今の私には踏み込めない。 「その脆さに心を篭絡され、一緒にどこかへ消える……これは三流小説のオチの一つではありますが、ラヴィニア様はこういった事をする覚悟はありますか?」 「……っ、馬鹿にしないで頂戴!」 一瞬考えたがメリットとデメリットがかみ合わない上に、おそらく"りょー"はそういった事を望まないだろう。だけど一瞬でも名案に聞こえたのは事実。 そんな後ろめたさから思わず声を荒げてしまう。 「失礼しました」 フランツさんは真剣な表情で頭を下げられると、細かいことで声を荒げた自分が惨めに思えてくる。 「ですが、議会は心配しているのです」 おおよそ心配とは無縁そうな場所の代表格が出てくる。 あそこでの私の立場はリゼットと同じく結構綱渡りな面もあるからあんまり印象を悪くすることはできない。 それはともかく、だ 「私の何を心配してるの?胃の方だって完治してるし今のところ疲れてもいない……ってまさか」 「その"まさか"です。かくいうワタシもそう心配しているのです」 頭が痛くなりそうだ。 いくら私でも駆け落ちなんていう事はしない。……と、いくら力説しても信用はしてもらえないだろう。 ヒトの魔力とはそれほどの物。自分の今の状態を鑑みれば当然ともいえる。が、そこまで信用してもらってないと分かると流石に悲しくなる。 「それでもう一度お聞きます。……三流小説のように――」 「否よ」 質問を遮り、私は即答。さっきの失態はこの場で返す! 「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」 当然だろう。しかし、ここで理想的な答えはあまり意味がない。多分だけれどもフランツさんが 求めてるのは本気の答えだ。 「どうやっても私だから……」 考えて出た答えの始めはそれだった。 「こうやって『王』をやるのも私。ロレッタと一緒にご飯食べて笑うあうのも私。リゼットにからかわれるのも私。そして、 りょーと一緒にいてワクワクするのも私……結局、全部私の心の一部なのよ」 ついつい弁に気合が入って胸に手を当ててしまう私。 けれど、これは偽るざる私の本心。 それに耳を傾けるフランツさんに、それを信じて欲しくてもっと続ける。 「今になってりょーという心の欠片がくっ付いちゃって壊せないし外せもしない。だけれど、どれか一つ欠けたら、私が私でなくなってしまう……ま、そういうことなのよ」 なんだか自分がとてつもなく恥ずかしいことを言った気がして最後だけ軽く締める……おかげでフランツさんの反応が気恥ずかしくてまともに見れない。 「それに、りょーとは恋人云々じゃなくて家族です!か・ぞ・く!!その辺間違えないでください」 何故か嘘をついているような気分に浸りながら、予防線を張っておく。 「はいはい、分かりました……それはともかくいいお話を聞かせいただきましたが、なにぶん年 寄りな物で物忘れが激しいので次の議会まで覚えていないかもしれませんが」 冗談めかして笑ってはいるが"心の中にしまっておく"と言われているのだ。 正直これをじいやに聞かれたら何て言われるか分かったものじゃない 「お二方、リゼット様達が上より戻ってまいりました」 そんな事を考えているとちょっと息を切らせた感じ走ってきた『軍』の人からの報告が飛んでくる。 「了解したわ。それを各配置に伝達し最終点検をしなさい。すぐにでも来るわよ」 「はっ!」 せわしない様子で戻っていく背中を見送りながら深い深呼吸。 ……これから起きる戦闘で手加減するとは言っても、もしかしたら誰かを殺してしまうかもしれない。 強くなるのは嫌いじゃないけれど、戦って怪我させるのも怪我するのも嫌いだ。それでも私は自分の学んだ技能を最大限使わないと死んでしまう。 それによって体の弱いロレッタが私の代わりに成る事だけは絶対に避けなきゃいけない。 だから、相手を殺してしまう覚悟が必要……分かっていても割り切れない。 「ラヴィニア様、最後に一つだけよろしいでしょうか?」 「……えぇ、どうぞ」 思考の淵に沈みかかったところでフランツさんの声で引き上げられる。 「もし、国とヒト、どちらを選べと言われたら貴方はどちらを選ばれますか?」 そんな突然の問いに、 「――」 今の私にはどちらも大事で……答えが、出せなかった。 「ご主人様、ただいま戻りました」 灰色の煉瓦で出来た地下通路をロジェさんの案内によって進んだ先には広い空間に大きな円卓。その周りにはカラオケ?の機械が置いてあり、異様な雰囲気を醸し出している。 その中でのんびりとしたイヌのフランツさんと落ち着きのないご主人様が座っていてとても対照的に見える。 「う、うん。おかえり……怪我無い?」 「えぇ、危ない目にも合いませんでしたから大丈夫ですよ」 心ここにあらず……というか自信を無くした感じで返事をされる。 どうにかして元気付けないとは思い、プレゼントの髪留めを渡そうと思案するがあの袋は忙しそうなリゼットさんが持ってるから渡すことができない。 ほんと、つくづくタイミングと要領が悪いなぁ俺。 「なに、りょー?」 どうやら、ご主人様の顔を見ながら考え込んでたらしくこちらが心配そうな目で見られてしまう。 全く、奴隷として失格だ。 「あー、いや、ちょっと考え事を……」 「言いたい事はちゃんと言う」 軽く頬を膨らませたご主人様に叱られるが、弱々しさばかりが強調されていつもの迫力がない。 こういう事は、やっぱりちゃんと訊いた方がいいかな。 「……ご主人様、悩み事とかあるんですか?」 「 な、ないよ?」 図星なのか否定の仕方がとてもわざとらしい。 追及してもいいが、頑として答えないのは目に見えている。こういうところが頑固なのがらしいと言えばらしいのだが。 「……はぁ、分かりました。でも何かあったら相談に乗りますから、その時はちゃんと言ってくださいね?」 「うん、その時はお願いね」 本人は元気一杯といった感じで笑おうとしているのだろうけど、余計に痛々しい。 ほっとけない、とは思うもののなかなか有効打が思いつかない。 「それじゃ、作戦会議といきましょ」 そんな明るいリゼットさんの声が部屋に響き渡ると、暗かったご主人様もその雰囲気を掻き消され、忙しなく働いていた回りの人達も直立不動の体勢にになる。 奴隷である俺が椅子に座る訳には行かないので、ご主人様の後ろに背筋を伸ばして立つ。 「……ロジェ、さっき偵察の報告を受けてたわよね?現状を説明して頂戴」 「はっ」 いつもとは違うドライアイスのような冷たい声のご主人様に合わせるが如く、空気が冷えてゆく。 「敵は北口と南口の2方向に分布している上、地上にはその支援班が存在します……戦力としては殆どがネコの雇い兵……といえば聞こえはいいでしょうが、要は金をばら撒いて集めたチンピラです」 「数は?」 「……我等の倍である160人ほどだと予想されます」 ロジェさんが言い難そうにその事実を語ると周りの人たちもにわかに騒がしくなる。 俺の単純な頭で考えても一つの入り口辺りに自分達の倍とやりあうのだから、騒がしくなるのも当然だと思う。 「――上等よ」 決して大きくはないご主人様の声で、雑音塗れの部屋が一気に静まり返る。 「『大戦』の古戦場ではないわ。だから一斉に雪崩れ込む事は不可能だし、もしもの時はここを即刻放棄する……それでどうかしら?」 その声は凛として否が応でも耳朶に染み込んで来る。……声の魔力とはこの事なのかもしれない。 「さてラヴィニア。現実的な対応としてはどうする積もりかね?」 フランツさんの太い声が、俺も含めでこの場全員に現実を再確認させる。 ご主人様の言う通り、一斉には来なくても物量の差という毒がジワジワと効いて来るのは目に見えている。 「それに関しては私に案があります」 そう声を上げたのはロジェさん。 「先ほど私が述べたように相手の練度は決して高くありません。ですから、頭を潰せはそれで事足りると思われます」 「それで?」 まるで先生が生徒に質問するような口調でフランツさんが続きを促す。 「相手は2正面作戦を仕掛けると予想されますので、お嬢様と私でその頭を潰します……その為に、この"迷宮"の防衛機構の全てを使用します……これが作戦概要です」 「ふむ、なるほど。だがイヌならまだしもネコが頭を潰した位で引くか?」 フランツさんが、すぐさま問題点を挙げる。 『指揮者が居ないとオーケストラにならない』とは、楽器をやっていたねーさんの台詞だが、強い目的があるなら指揮する人が居なくなっても目的を遂行しようとするだろう。 「――絶対に引くわ。雇い主が潰れちゃ、収入も入らない」 今まで黙っていたリゼットさんが、唐突に語り出す。 「損ばかりで得にもならない仕事を、はした金で雇われた奴等が必要以上にやるとは思えない。それに推測だけど前金だけ貰って逃げた輩も多数存在するはずだから士気も高くない筈 ……ま、それがネコとしての私の見解よ」 最後を軽い感じで締めるが、自分の身内がやっているという意識がある所為か目が笑っていない。 慰めようとしても意味が無いだろうし、何よりこの人自身が拒否するのは付き合いの短い俺でも分かる。 「……うん、希望的憶測だけどリゼットの考えに私は賛成よ。消耗戦は体力的にも数的にも劣るこちらが不利。だから罠を駆使し、敵の流れをいなしながら頭を潰す……これでいいかしら?」 頃合を見計らった主人様の意見に円卓を囲う全員が頷く。 それを満足げに見回して「解散!」と告げると、それぞれが立ち上がり周りで待機していた人達と話し合いを始める。 「?」 だけど、ご主人様だけはその場に座ったままで動かない。 「……ご主人様?」 声を掛けるべきか悩んだが、さっきまでの様子を考えると掛けなきゃいけない気がする。 「んー何かしら?」 くるりと椅子を回してこちらに向いて反応するご主人様の声音自体はいつもと変わらないが、 表情が前と同じで何処か泣いているように見えて仕方ない。 しかし、こう反応されると返す言葉が思いつかない。 「えぇと、ご主人様は……打ち合わせとかしないんですか?」 「むぅ……私自体にはそういう権限はないしね」 なんとか捻り出した質問だったが、ご主人様の答えが妙に引っかかる。 ……そんな俺の思考が顔に出ていたのか、ちょっとだけ苦笑される。 「えーとね、私には『王』って肩書きはあるけどそんなに自由になんでも出来る訳じゃないの」 「それは前に聞きましたけど……具体的には?」 「方向性とか抽象的な面での指示って程度よ。そういうこと決めるだけでも大きな権力なんだけどね」 あははー、と事も無げに笑っているが十分凄い事じゃないかと思う。 俺ならその責任感だけで潰れて何も出来ないだろし、何よりその『方向性』自体どうやっていいか分からない……っと感心してる場合じゃない。 「そ、それでご主人様……」 なんとか悩みを聞きだそうと、手を変え品を変えて質問するが全部はぐらかされる。 あんまり人の心に踏み込むものじゃない……とは、思うがこのまま戦いに送り出すのは正直、かなり不安だ。 「……お嬢様、開始の挨拶をお願いします」 そうやっている内にロジェさん達の打ち合わせが終わったのか、そんな事を頼まれるご主人様。 ……つまり時間切れ。結局、肝心なことは聞き出せずじまいだ。 「分かったわ。それじゃ、りょー、外は危ないからここに居てね?」 「はい……怪我では死にたくありませんから」 将来がどうなるか分からないが、今のところは死にたくない。 そんな俺の物言いの何処が面白かったのか分からないが、ご主人様がくすくすと小さく笑う。 「ふふ、ここに居るなら私の席に座っててもいいわよ……帰ってくるのは全部終わった後だし、ね?」 「分かりました……いってらっしゃい」 「ん、いってきます」 まだ、かなり不安だけど、何もやらなかったよりマシ……そう自分を誤魔化すしかない。 俺がグダグダ悩んでいるうちに、ご主人様はあの例のカラオケのような物の横にあるマイクを手に取って、一つ深呼吸。 『……話は聞いてると思われますが、我々は、倍の戦力に包囲されています』 すっと耳に入る重いご主人様の声。 それが余計に現状の悪さをより強調する。 『ですが、策はあり、地の利もあり……そして、まだ"絶望"していません』 さっきとは打って変わり、柔らかな口調で続ける。 『総員、奮起しなさい。そして、全員生きて戻るように……それが私の下す最初の命令よ』 「「イエッサーッ!!」」 通路の奥からそんな大声が響いてきて、思わず俺は体を竦めたというのに、ご主人様は満足げに笑うだけ。 と、大人しくしていたリゼットさんがいきなりマイクを奪い取る。 『えー、ついでで連絡……ロジェ将軍が来週、結婚するわ』 ……は? 『と、言う訳だから全員怪我もするんじゃないわよ?――以上、財務担当リゼット・メイフィールドでしたー♪』 暢気極まりないリゼットさんの発言に全員が呆気に取られている内に「はいっ」と奪ったマイク をご主人様へ押し付けて、さっさと元の場所へ戻っていく。 「リゼっち! 余計な事、喋りやが――!?!!?!」 一番早くこの状況から復帰し、必死の反論しようとしたロジェさんだったが、数人に担がれ通路の奥へと引きずり込まれていった……「どんな嫁さん貰うんだ、このたらし!」とか「恨めしいから縛って敵陣に投げ込むか?」などという台詞が聞こえるのは気のせいだろう、多分。 『あ、はははは……という事らしいから、絶対に死なないで彼の結婚式で会いましょう、以上!』 リゼットさんの乱入で削がれた緊張感の建て直しは諦めたらしく、さっぱりとした感じで締めてマイクのスイッチを切る。 「……で、リゼット。あの話は本当?」 「嘘ついても仕方ないでしょ?……私がその為にどれだけの予算と時間を掛けた事をアイツは知ってるはずよ」 自慢ありげにリゼットさんは笑っているが、どこか寂しげに見えたのは幻覚だろうか。 それにご主人様も気づいたのか、さらりと話題を変える。 「さてと、フランツさん……ロジェ将軍は北口に連れて行かれたようなので私は南口方面へ行きます。帰ってくるまでの間の指揮をお願いします」 「お任せ、ラヴィニア様」 座ったまま、あの怖い犬頭を下げて答えるフランツさん。 それを聞いたか聞かないかのあたりのタイミングで、朱色のスカートを翻して足音も無くご主人様は別の方向へ歩を進める。 ……まだ、残っている。 あの、悩みと哀しみが入り混じった雰囲気がまだ、その背中に少しだけ残っている。 無視しろ、と考えればそれまでだけど、それが出来るほど俺は……人が出来てない。だから ―― 「ご主人様っ!」 呼びかけられた事が余程不思議だったのか、小首を傾げながらこちらに振り向く。 あっちから歩み寄られる前に、俺は立ち上がって逆に近寄る。 「えーとなに?」 俺の今の表情から、何を考えているのか読み取れない所為か目尻を下げて少しだけ不安そうなご主人様。 ここまで来たら――やるしかない。 「……ちょっとだけごめんね」 「え?…………な、ななななななっ!?」 かなり過激だが、ご主人様の見た目以上に華奢な体を俺の腕の中に抱き込む。 物騒な格好をしていても女の子。こうやってみると柔らかくてドギマギしそうになるが、ひきつけでも起こしたみたいな呼吸をしているのが聞こえて妙に落ち着く。 ……昨日やられた事の仕返しも込めてもっと強くしてみる。 「ん、大丈夫、大丈夫」 出来うる限りやさしく囁いてやり、おまけに軽く背中をトントンと叩く。 ねーさん直伝の泣く子を黙らせる方法だ。 「ぐすっ……ずず……りょーの、ばかぁ」 何故か本当に泣いてる様な声がするんですが……ねーさんどういう事ですか?! さっきまで何とか取れていた心の均衡が崩れかけてパニック一歩前だが、こうして泣かれてる手前そんなことは出来ない。 「ん……大丈夫だから、泣き止んで?」 「教えないっ……何で泣くのか、ぐす、ぜったいに、教えないんだから……っ」 変な所で意地っ張りだとは思ってたが、こういう所で発揮されるとは思わなかった。 ……ちょっと趣向を変えてみよう。 「ん、あふ……ん、うぅ」 一瞬にして泣き止んで変な声を上げるご主人様だが、別に変なことはしていない。 背中を叩く代わりに、ただ優しく頭を撫でるだけ。 今までの経験で、こうやって撫でると大人しくなる……その考えは見事に当たり、こんな風に落ち着いてくれている。 「今は別に聞きませんから、いつか……いえ、話したくなったらお願いします、ね?」 「う、うん」 ちょっと泣いた所為か声がくぐもって聞こえるがしっかりとした返事。 最後にねえさんからの駄目押しをやってみようかな? 「でも一つだけ……何処に居ても貴方は貴方で居られます。それは俺が保証します」 初めての試合で緊張でガチガチ固まって回りも見えないほどだったのを、ねえさんがこう言って和らげてくれた大切な言葉。 ……殆ど似ていない状況ではあるけど、ただ一つやり直しの効かない舞台というのは同じ。だからこの言葉を選んで、伝える。 ご主人様が何を悩んでいるのかは分からないし、聞いても答えない。ならば、こちらから踏み込んでいくしかない……例えそれが余計なお世話でも、だ。 「ん……ありがと」 珍しくちょっと甘えた感じの声が耳に心地よくて、腕にもっと力を込める。 細い体には強すぎて痛い筈なのに、文句一つ言わずに大人しくしているご主人様は……本当に、何を考えているのだろうか? 「………………ごほん、ちょっといいかしら?」 「ひゃあ!?!?」 「――おわっ!?」 横合いから声にいきなり声を掛けられ、ご主人様に突き飛ばされた辺りでようやく周りの状態を確認できるだけの余裕がなんとか出来る。 ……そういや周りに人がいたんだっけ? 「あんたたち、熱いのは構わないけど周り見てね?」 「ち、違うわよっ!……あぁもう、時間無いから、またねっ!」 そう言って転がって逃げるように走り去るご主人様。 あの雰囲気がかなり和らいで、いつもの物に変わったような気がする。 「ありがとね」 「……?」 ご主人様の後姿が見えなくなった辺りで、両手を胸の前で組んで優しく微笑してるリゼットさんが突然俺にそんな事を言ってくる。 「自分の事で、精一杯であの子に何もしてやれなかった……本当に貴方がいてよかったわ」 「……そんな事無いですよ」 元はといえば、俺がこの居場所からまだ出たくないだけの自衛策。 褒められる様な事はしていないし、なにより、それすら失うタイムリミットが迫っている。 「ふふ、そういうことにしておくわ。さて……ロジェに頼まれた仕事でもしましょうか」 「えーと手伝えるなら手伝いますけど?」 正直、座ってばかりだと嫌な事まで思い出してしまうから動きたいのだけれど……。 そう思って何気なく言ったのだが凄く悪戯っぽい表情で、 「傭兵連れて、地上の支援班潰しに行くんだけど、見る?」 「ごめんなさい、ここで座ってます」 「うん、ヒトはここで結果を待ってなさい……すぐに持ってくるから」 そう自信ありげに言い放つと、脇に垂らした金色の房を揺らして通路の奥へとリゼットさんは消える。 それを見送りながら、周りを見回すとちょっと怖い顔のフランツさん……この人と、正面から話し合った事は、まだ無いはず。 そんな気まずい空気を読み取ってくれたのか、あっちから声を掛けてくれる。 「まぁ、座りたまえ。いろいろ話したい事もあるしな」 多分、笑ったつもりなのだろうけど、並びのいい白い牙が見えて背筋が薄ら寒くなる。 ……願わくば、食べられませんように。